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六月も終わりの頃。 リンドブルム大学では毎年、卒業式が執り行われる。 二年間の厳しい学業を修めた学生たちにとって、最も嬉しく、誇らしい時。 そして、友との別れの時。 ある者は進学し、より専門的な学問を欲す。 ある者は職に就き、一握りの成功を目指す。 そしてまたある者は、旅の人となり世を廻る。 しかし。 今年の卒業生には、一人の異色な学生がいた。 金色の髪に青い瞳。尻尾が特徴的な青年。 そう、彼は卒業後、とある王国の女王と結婚することになっていたのだ―――! *** 「ご列席の皆さま。只今より、リンドブルム大学第四十五期卒業生が入場いたします。大きな拍手でお迎えください」 アナウンスが入り、会場内にわっと拍手が起こる。 卒業生たちは、リンドブルム大学の校章の入った黒いガウンに、房の付いた帽子姿で、列をなして入場した。 卒業生が全員席に着くと、オルベルタ大臣が卒業生全員の名を記した紙を広げ、仰々しく咳払いした。 「これより名を呼ぶものに、リンドブルム大学卒業を認め、学位を与える」 大臣は、工学部から順に、卒業生一人一人の名を読み上げた。 続いて航空学部、建築学部……最後が政治経済学部。 卒業生全員の名が呼ばれ、最後の一人。 「―――第四十五期卒業生、総代。政治経済学部、ジタン・トライバル」 「はい」 金髪の学生が立ち上がり、幾人かが彼を肘で突付いた。 彼は、笑いながら壇上へ上がった。 学長であるシド大公が、一際誇らしげに自慢の髭を撫で、読み上げた。 「学位記。第四十五期卒業生、ジタン・トライバル。 右の者は、リンドブルム大学に於いて所定の単位を取得した。よって、政治学及び経済学の学位を与する。 1804年6月末日。リンドブルム大学長 リンドブルム大公 シド・ファブール9世。 ……おめでとう!」 シド大公は満足そうに微笑むと、卒業証書を差し出す。 ジタンは証書を受け取ると、悪戯そうにニッと笑った。 そして、会場の同窓生たちに振り向いた。 その瞬間。 「リンドブルム大学、万歳!」 卒業生たちは歓声を上げながら、一斉に被っていた帽子を空に向かって投げた。 友人と抱き合う者、肩を叩き合う者、教師たちと談笑する者。 明日から始まる新しい人生が光に満ちていることを、誰一人疑わなかった。 今年もまた、たくさんの若者たちがこの大学を巣立ってゆく―――。 **おまけ** 「ジタン!」 卒業生の家族たちも入り乱れ、その中でようやく彼女は彼を見つけ出した。 「ダガー! 来てくれたんだ」 ジタンはガーネットを引き寄せ、軽く抱き締めた。 「すごいわジタン、一番で卒業するなんて! シドおじさま、とても褒めてくださってたわよ」 「へへ、まぁね」 彼は照れくさそうに小鼻を掻いた。 ガーネットは心底嬉しそうに微笑み、 「卒業おめでとう、ジタン」 と、祝いの言葉を贈る。 ジタンはその耳に唇を寄せ、こう囁いた。 「これでやっと、明日からはずっと一緒にいられるな、ダガー♪」 ひどい喧騒のお蔭で、真っ赤になってしまったとある王国の女王には誰も気付かなかった。