結局、夕飯の時間を大幅に遅れて帰ってきた二人に、更なる叱責が浴びせられたのは就寝前。
「おめぇら。ちゃんと掃除はしたのか?」
 ギクリ、と二人。
「……ゴミ集めは途中までやったんだけど……」
「終わってねぇようだな」
 と、バクー。
「与えられた仕事は責任もってやるってのが、タンタラスのオキテ第二条、だったよな?」
 無言で肯く二人の少年。
「それをお前らは放り出して、おまけに暗くなるまで遊び回ってきたわけか」
 遊んでいたわけではないのだが、「会わない」と言った手前、何となく口を割りづらいブランクと。
 相棒がものすごく心配になって思わず飛び出してしまったとは、照れ臭くて言えないジタン。
 二人は仲良く、今後一週間の連続掃除当番を仰せつかった。




「……なぁ」
 ブランクは寝そべったまま、足を伸ばして二段ベッドの上の段の張り板を蹴った。 「寝たか?」
「いんや、起きてる」
 ジタンは寝返りを打つと、転落防止用の柵からぴょこんと顔を出した。
「なんだ?」
 その顔を見て、ブランクは途端に寝返りを打ち、そっぽを向いてしまった。
「―――いいから早く寝ろよ」
「なんだよぉ、人のこと呼んどいて」
 ジタンは口を尖らせて抗議すると、また枕へ戻った。
「あのさ」
 しばらくすると、ブランクはまた話しかける。
「ん?」
「今日―――さ」
「うん」
「お前が来てくれて、よかった」
「え?」
 ジタンは思わず再び頭を上げかけたが、察知したブランクは「いいから」と止めた。
「俺、あのまま一人だったら、今でもあそこにいたかもしれない」
 ブランクは小さな声で、ぽつぽつと呟くように話した。
「どうやって帰ったらいいのか、わからなくなってた」
 ジタンははっとして、黙ったままきゅっと眉を寄せた。
 それは、家出した自分が感じたのと同じ感覚だった。
 誰かに引きずり上げてもらわなければ、永遠に、闇に撒かれて沈んでしまうような感覚……。
「お前がいなかったら、ここに帰ってきていいんだって、思えなかったかもしれない」
 風がカタカタと窓ガラスを叩いて、去った。
 ジタンは押し黙っていた。
「ありがとな」
 小さな感謝の言葉が、初めてジタンに思い知らせた。
 ―――だから、自分は彼を迎えに行ったのか、と。
 不安になったのは、彼が自分と同じだったから。
 自分が哀しかったのと同じ分だけ、彼も哀しみを抱えているはずだから。
 結局、同じなんだ。


 そう思ったら、ジタンは何となく安心した。
 安心したら、いきなり眠気が三倍増しになり―――


 そのままコテンと寝入ってしまった様子を測り知ると、ブランクはほっとため息をついた。
 そして、もう一度張り板を蹴り上げた。
「普通、寝るか?」
 しかし、上の段からはもう、規則的な寝息しか聞こえてこなかった。



***



 それから、何年もたった後。
 ブランクは、生まれてきた娘に母の名を付けた。
 消えかけた墓碑銘に刻まれていた、その名を。

 結局、彼はどこかで母を許していたのだ。



 今でも、彼の母の墓には、時折小さな花束が供えられる。
 忘れ去られたこの世の果てに、彼の母の墓だけは、いつも温もりに満ちていた。
 彼や、彼の妻や、彼の子供たちが。
 そして、時には彼の仲間が。
 この世に生まれ、この世に彼を生み落としたかの人の、命が確かに存在したことを反芻しに訪れるのだった。



-Fin-










久々のタンパニ、今回はブランクの生い立ちのお話しでした。
このお話、実はかなり前から出来上がっていたものだったのですが、
今まで更新のタイミングがなく、お蔵入りしていました。
・・・どうにも暗い話なので(^^;)
これ、タンパニのシリーズに入れるのを結構悩んだんですが、
副題をつけて何とか落ち着きました。
ちなみに、ブランクの生い立ちについては、もちろんのことですが私の創作です(^^;)

なんだか背景と文字が見辛い感じですねぇ・・・(汗)
文字を大きくしたらますます背景と被って見え辛かったので、今回は小さくしてみました。
見えにくい方は文字の設定を大きくしてご覧下さい(^^;)
・・・って、最後に言っても意味ない?!

2005.2.17



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