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 クリスマス・イヴに式を挙げたいというある意味ものすごい我が侭を言ったエーコに、誰も苦言を呈さなかったのはその麗しさのなせる業か。
 ジタンとガーネット、子供たちがリンドブルムの城に着いたとき、エーコはちょうど着付けを終え、控え室でくつろいでいた。
 他人に言わせれば、式当日にくつろいでいられる花嫁とは驚くべき存在、らしいが。
 真っ白なウェディングドレスはエーコによく似合っており、あの愛くるしいおしゃまな少女は、いつの間にか、すらりとした四肢に思慮深い瞳の美しい娘になっていた。
 ガーネットと娘たちは式の打ち合わせがあるため、ダイアンを連れて先に部屋に入ったジタンは、一瞬まぶしそうな顔をした。
「へ〜、馬子にも衣装、とはよく言ったもんだよな」
 と、開口一番失礼なことを言われても、エーコはよく心得ている。
「今更あたしに惚れても遅いのだわ、ジタン」
 腰に手を当て怒った口振りだが、目は笑っていた。
「はいはい、悪うございました、エーコ姫」
「わかればよろしい」
 そう言って、エーコは笑い出した。体を屈め、父親の足元にくっついている茶毛の少年に話し掛ける。
「こんにちは、ダイアン。久しぶりだけどあたしのこと覚えてる?」
「うん」
 ダイアンはもじもじと返事した。
「ダイアンは今幾つだったかしら?」
「六歳!」
 彼は胸を張り、元気よく答えた。
「じゃぁ、ちょうどあたしがあなたのお父さんやお母さんたちと出会ったのと、同じ歳なのね」
「あ、そっか。そうだよな」
 と、これはジタン。
「そうかぁ。あの小さかったエーコがなぁ、結婚するんだもんなぁ。オレも年取るわけだよ」
 と、頭を掻く。
「そんなに年取ってるようにも見えないけど」
 エーコは冷ややかな目線でそう告げた。
「ダガーが言ってたわよ。ジタンはいつまでたっても子供みたいで困るって」
 ジタンはあからさまに渋い顔をした。
「んなこと言ってた?」
「言ってました! それに、さっきスタイナーも同じようなこと言ってたわ。そしたら、フライヤが『あやつは十四の頃から変わっておらぬ』って言って、スタイナーは諦め顔になってたけど」
 げげ、と、ジタンは気まずい顔で呻いた。
「黙ってふらっと出かけたり? 酒場で騒いで追い出されたり? トレジャーハンティングで危うく警備兵に捕らえられそうになったり? ねぇ、ちっとも落ち着かないのね、ジタン」
「あのさぁ……ダガーみたいなこと言わないでくれる?」
「わたしが何?」
 ガーネットが背後から声をかけ、ジタンはびっくりして振り向いた。
「ダガー……」
「なぁに? 何の相談?」
「ジタンがしょうがないって話をしてたの。ね、ダイアン」
 急に話しかけられたダイアンは、キョトンとした顔で頷いた。
「あらあら。でも、それがジタンなんだから仕方がないわ」
「ちょっと甘いんじゃない、ダガーは」
 エーコの言葉にガーネットはふふ、と笑みを漏らした。
「エーコ! おめでとう。とても綺麗だわ」
 エーコの側まで歩み寄り、抱き締める。
「ありがとう」
「幸せになってね」
「もちろん! あ、ねぇ、エミーとサフィーは?」
「今、着付けしてもらってるわ。ちょっと様子を見てこなくちゃ。また後でね、エーコ」
 ガーネットは忙しげに部屋を出て行った。
 去り際、ジタンに笑みの篭った目配せを送りつつ。
 エーコはその様子を見て、まったく、お熱いことだわ、と独りごちた。

 リンドブルム教会の鐘が、街に鳴り響く。
 国中の人がうきうきと浮かれており、それは、クリスマスのせいだけではなかった。
 式が済むと、一向は城へ舞い戻り、披露宴となる。
 リンドブルムの公女だけあり、やはり名家からの出席者は多い。
 エーコはそれを不満がったので、二次会と称して親しい仲間内だけの祝賀パーティも用意されていた。
 仲間内、というのは、あの戦いで一緒だった仲間たちと、タンタラスのこと。
 それぞれ増えた子供たちも一同に会し、かなり賑やかなものだった。
 というのも、リンドブルムでは、結婚パーティで新郎新婦に歌を送るのが慣わし。
 参加者は皆、何某か歌をプレゼントする決まりなのだ。
 というわけで。
 ジタンはかなり無理矢理引っ張り出され、一家で聖歌を一曲歌う羽目となった。
 ともあれ、三人の子供たちは揃ってカナリヤのような歌声なので、そのかわいらしい姿は列席した人々の微笑みを買ったが。
 また、タンタラスは揃って雀のように歌い、ほとんどおふざけになって失笑を買った。
 さらに彼らは特別に芝居を演じた。
 エーコ嬢リクエスト、「星に願いを」だ。
 バンスが「あなたという流星に出会うため……」というセリフのときにエーコに花を投げ、エーコがそれを拾い上げて口付けして見せたので、客席から歓声が上がった。

 綺麗な花嫁姿に憧れを抱くエメラルドは、羨望の眼差しでエーコを見つめていた。
 式の最後、彼女が投げてくれたブーケを握り締めながら。
 その場の全員が幸せで、笑っていて、それが永遠に続くような気がして。
 ―――でも、そうではなかった。
 かなり後になってその時のことを思い出したとき、あれは夢の中の出来事だったのではないかとさえ思うのだった。



 さらさらと零れ落ちる砂時計の砂を止める術がないのと同じように。
 さらさらと流れる時を止めることも、また叶わないのだ。





終わり意味深ですね〜・・・。Finマークないし(笑)
え〜、このあと2世たちが成長した話が続きます。これはそのプロローグです。
しっかし、2世って、偉くオリジ色が強くなりますね・・・。
一応、長女エミーの分だけは話が出来上がっています。近日後悔(笑)予定。
2002.9.6



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