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 子供たちが居残りまでして練習するほど熱心なので、ブランクはすっかり感心していた。
 ―――まさか子供たちが企みごとをしているなどとは、まるで思いも寄らないのだった。



 劇場の第三リハーサル室。
 タンタラスの舞台稽古はいつもこの部屋だ。
 なんだかんだと言い含めて座長を追い払ってしまうと、彼らはいつも決まって同じシーンを練習していた。


 船が出てしまう。
 太陽が昇りかけている。
 恋人は来ない。
 マーカスは一人、コーネリアへの想いを切々と語る―――


「太陽が祝福してくれぬのなら……えっと、なんだっけ?」
 こけっ。
「おい〜、大丈夫かよ」
「ふたつの月に語りかけよう! っスよ、サフィーさん」
「ああ、そうだった!」
 と、頭を掻くサファイア。
「サフィー、ちゃんとセリフ覚えてるの?」
「だって、このシーンのセリフすごく多いんだもん」
「大丈夫なんっスか……?」
「大丈夫そうには見えないずら」
「もう、あとひと月しかないんだよ〜!」
「……ごめん」
 あはは、とサファイアが誤魔化し笑いを浮かべ、他のメンツはがっくりと肩を落とした。
「ほら、もう一回最初から!」
「キビシイな〜、リアナは」
 と、茶々を入れるジェフリー。
「あのねぇ、わかってる? これ、事実上わたしたちの初舞台なんだよ」
「へ?」
「ピーター・パンだったんじゃないんっスか?」
「あれはだって、ちゃんとした舞台ではやらなかったじゃない」
「そうずら」
 とラリが合いの手。
「わたしたちの様子を見るための興行だから、舞台とは言えないの」
「それに、あの時はサフィーも一緒じゃなかったずら」
 そう言えば、と一同は頷いた。
「だから! 特にアレクサンドリア公演なんて伝統ある公演で失敗やらかしたりしたら、わたしたちの収入に影響してくるわけ」
「それは困る!」
 キッパリとジェフリー。
 ―――さすがにお金にはうるさい盗賊一団であった。
「とにかく、似てる似てないの前にセリフはちゃんと覚えて、サフィー」
「……うん、なんとか頑張る」
「はい、じゃぁ、もう一回!」



 一方、アジトの夫婦。
「ホンマ、みんなよう頑張っとるんやねぇ。エライわぁ」
 と、感激もひとしおのおかみさん。
「しっかし、気になることがあるんだよな」
「何?」
「う〜ん……」
 ブランクは一瞬顎に手を当て、考え込んだ。
「どうも、毎日遅くまで練習してる割に、うまくなってないんだよなぁ」
「そうそううまくなるもんでもないやないの」
「……まぁ」
 なんとなく腑に落ちないものの、子供たちがよく頑張っていることには喜びを禁じえない父親なのだった。