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 一度暗転した舞台の中央に、突如としてスポットライトが当たる。
 舞台奥には、三人の若人が跪いていた。
ブランク:「父を殺され! 母を殺され! そして、恋人と引き離されたマーカスよ!」
 と、立ち上がるのは右端の赤毛の少年。
 ブランクの息子、ジェフリー。
シナ:「おお、欺くも不仕合わせなマーカスよ! これからおまえは何を希望に生きてゆけばよいのだ!」
 次に立ち上がるのは左端の少年。
 シナの息子、ラリ。
 そして。
ジタン:「こうなれば我が友の為! 憎きレア王の胸に烈火の剣を突き刺してやろうではないか!」
 空へと剣を掲げたのは、他でもないジタンの娘(!)、サファイア。
ブランク&シナ:「オォーッ!」
 と、三人は元気よく舞台中央へ飛び出す。
 呆気に取られてしまったジタンの隣で、ガーネットが「まぁ」と、声を漏らした。



ブランク:「助太刀に来たぞ、相棒!!」
マーカス:「手出しをするでない!!」
シナ:「そうはいかぬ! 俺もレア王には兄弟を殺されているのだ!!」
レア王:「ええい、下がれ下がれ、無礼者! 我が野望の行く手を塞ぐ奴は誰とて容赦はせぬぞ!  余に刃向かう奴は、この闇夜の露と消してくれるわ!!」
ジタン:「レア王よ、我が友の心の痛みを受けてみよ! 我が友の心の悲しみを受けてみよ!!」

 ガキン、と、剣のぶつかり合う戦闘シーン。
 すらりと剣を抜いたマーカス役のハリーも、また初代マーカスの息子。
 四人がずらりと並んだ姿は、ある意味壮観だった。
「まさかだよなぁ……」
 と、夫が小さく呟いたのを、ガーネットは聞き逃さなかった。
 たぶん、そのまさかだろう、と彼女は思った。
 ―――あの子なら、やりかねない。



 マーカスの渾身の一撃がレア王の姿勢を崩した。
レア王:「う、うぐっ…このままで済むと思うなよ、マーカス!」
ジタン:「待てっ!」
 さっとジタンの前に回り、行く手を遮るブランク。
ジタン:「なぜ止めるっ、ブランク!!」
ブランク:「ジタンよ、冷静になってよく考えてみろよ。シュナイダー王子とコーネリア姫が結婚すれば、ふたつの国は平和になるのだ!」
ジタン:「笑止千万! それですべてが丸く納まれば、世の中に不仕合わせなど存在しない!」
 言うなり、剣を振り翳す。
ジタン:「やぁ!!」
ブランク:「たぁ!!」
ジタン:「やぁ!!」

 ここで、ブランクの役にはお決まりの空転が一つ。
 ジェフリーは危なっかしい(あくまでジタンが見て)回転を決め、着地した。
ブランク:「こうなれば、いざ勝負!」
ジタン:「望むところだ!!」

 そこで、二人は城の客席前まで走ってきた。
 ……ああ、やっぱりきた、と、ジタンは頭を抱えた。
 このシーンはあまりの危険さに封印したはずだったのに。
ブランク:「掛かって来い!」
ジタン:「裏切り者は許さん!!」

 ―――『君の小鳥になりたい』の見せ場の一つ、剣舞。
 太刀を振るいながらクルクルと空転するという、人間離れした業を見せる。
 もう随分前にこのシーンを見たとき、ガーネットはただならぬ状況にあり、ゆっくり席についていられなかった。
 それでも、客席の歓声に思わず振り向き、二人の少年が華麗に剣舞するのに見入ったほどだった。
 ガーネットは微笑んだ。
 ―――あの子ったら、楽しそうな顔をして!
 サファイアは、文字通り悪戯そうに笑いながら、ジェフリーの剣を受け、時にひらりと交わして見せた。
 その度に、客席からはおぉ、と歓声が上がる。
 しかし、彼女がくるりと空中で回転した折には、流石に客席からも固唾を呑むようなため息が漏れた。
 とはいえ、彼女があまりにも綺麗に回るので、観客はあっという間に魅入られてしまったのだが。
 やがて、ジェフリーは剣を下げた。
ブランク:「この勝負はおあずけだっ!」
ジタン:「そうはさせるか!!」

 ジェフリーの後を追い、サファイアも城中へ走り去る。
 去る瞬間、ロイヤルシートを見上げてとびきりの笑顔を残した。