*前回までのあらすじ*

 サラマンダーと落ち合ったジタン、ガーネット、エーコは、翌日の朝旅立つことを約束し、一度自宅へと戻ることに。
 ジタンはガーネットを連れ、アジトへ戻ることになった。
 劇場街の駅では彼の母サフィーが二人を出迎えてくれ、家族団らんの食卓に、ガーネットは刹那、自分の家族のことを思い出すのだった。
 翌日、エーコの地図の通り向かった先にあったのは、ク族という種族の暮らす沼。
 そこから先へ進むには、ク族の若者クッタの協力が必要となった。

 一方、すっかり忘れ去られたままエーコ邸で夜を明かしたスタイナーは、ブルメシア人の竜騎士フライヤと共に、ジタンたちの後を追って外側の大陸へと向かうことになったのだった。



第四章<1>



 クッタの案内でフォッシル・ルーへ抜ける道を探り当てたパーティは、やけに人馴れしたガルガントを一頭餌付けし、外側の大陸まで意外にも快適な旅をした。
 それでも辿り着いた先で久しぶりに太陽の光を浴びると、一行は解放された気持ちになったのだった。
「エーコ、この地図どうなってんだ?」
 ジタンは、老公女から預かった古地図を見ながら首を傾げた。
 行き先を示す赤い線は、森の中へ伸び、先は細くなって途切れている。
 現地へ行ってみれば分かるかと思ったが、崖の上の方から森を眺めても村らしきものは見えなかった。
「地図の通りのはずよ」
 エーコは口を尖らせて対抗する。
 しかし、このパーティでモンスターの巣食う森の中をうろうろするのは危険だと思われた。
「そこに村が見えるわ。村人に聞いてみることはできないかしら?」
 ガーネットが提案すると、ジタンも頷いた。



「ラリホー!」
 と、村人は親しげに手を上げた。
「「……ラリホー?」」
 ジタンとガーネットが顔を見合わせる。
「コンデヤ・パタへようこそ。ここはドワーフの村だド」
「ドワーフの言葉で、ラリホは『こんにちは』という意味だド」
「ラリホーなのだわ。ちょっと聞きたいんだけど、黒魔道士の村へはどう行ったらいいのかしら?」
 と、小柄なドワーフと身長の変わらないエーコ。
「あんた、見覚えがある顔だド」
 ふと、門番の一人がそう呟いた。
「昔のドロボウの似顔絵にそっくりだド」
「ドロボウ? ……何の話だかサッパリわからないわ」
 エーコは小首を傾げる。
「バカを言うでねぇ、トラキチ。あんな昔の似顔絵、今だったら立派なバアサンになってるド」
「それもそうだドな」
「おめぇら、クロマの村へ行きたいだド?」
「ああ、そうなんだ」
 ジタンが頷いた。
「ちょうど、クロマの村からお使いが来てるド。案内してもらったらいいド」
 彼らは揃って村の中を指差した。
「どうもありがとう」
 ガーネットが少し屈みこんで礼を言うと、ドワーフたちは人好きのする顔で笑って見せた。



 大陸間に飛空艇が飛ぶようになって五十年近くが経ち、大陸ごとに文化の違いがあることも知られている。
 しかし、見るもの聞くものが珍しいのはいつの時代も同じことだ。
 露店に並ぶ珍しい食材や変わった形の器、住人たちの服装や話し言葉も慣れないものだった。
「あの子、変な格好だわ」
 エーコがふと気付いて、指差した先。
 とんがり帽子の小柄な人影が、大きな荷物を抱えて頼りない足取りで歩いていた。
「あれが『お使い』か?」
「話しかけてみましょうよ」
 一行が近寄ると、とんがり帽子は驚いて立ち止まった。
「ねぇ、あなた。黒魔道士の村から来たの?」
 と、エーコが尋ねた瞬間。
 びくっとしたかと思うと、持っていた荷物を全て地面に取り落としてしまった。
「あ!」
 小さく悲鳴を上げる黒魔道士の少年。肩をガックリと落とした。
「も〜、何やってるのよ、ドジなのだわ」
 土ぼこりを払いながら、全員で荷物を拾ってやった。
 オレンジ、トマト、パンの包み、ハム、チーズの塊り……。
「こんなにたくさん、一人で食べるアルか?」
 クッタが目を丸くした。
「ボク一人じゃないよ。村のみんなで分け合うんだ」
 全部を袋に入れ直すと、少年はもう一度大事そうにそれらを抱えた。
「ほら、手伝ってやるよ」
 ジタンが袋をいくつか引っ張り上げると、少年は驚いたように彼を見た。
「でも……」
「お前一人でこんなに運べないだろ?」
 ジタンは受け取った荷物をサラマンダーに渡してしまうと、少年が持っていた残りの荷物を全部掻っ攫った。
「オレはジタン。それから、ダガー、エーコ、サラマンダーにクッタだ。オレたち、黒魔道士の村に用があるんだ。村に住んでるミコトって人に」
「ミコトに?」
 少年は金色の瞳でじっとジタンを見た。
「知ってるのか?」
「うん、知ってるよ。えっと、ボクはビビっていうんだ」
 彼は恥ずかしそうに、空いた両手で帽子を直した。
「もしよければ、村へ案内してもらえるかしら?」
 ガーネットはビビの目線に合わせて屈みこんだ。
「うん、あの、荷物のお礼もしたいし」
 ビビは頷いた。





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