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「笑えよ」
 近づいた旧友の足音に、ジタンはそっと息を吐いた。
「このオレが、王族の血を引いてたんだぜ」
 ―――それも、とんでもない血を、さ。
 ジタンは、そう小さく付け加えた。



 民衆運動の盛んなリンドブルムで育った彼が、王族など好きなはずがなかった。
 しかし、最早そんなことはどうでもいいことに思えた。
 サラマンダーは、何も答えなかった。
 沈黙が流れ、星と風がそれを見守った。
「でもさ」
 ジタンは両手を伸ばし、星を掴もうとしたが無理だった。
「一番ショックなのは、ダガーが従妹だってことかもなぁ―――」
「バカが」
 サラマンダーは鼻を鳴らした。
「安心しろ。リンドブルムの法律なら、従兄妹同士は結婚できる」
「それ、慰めになってんのかぁ?」
 ジタンは手摺にもたれ、サラマンダーを振り返った。
「……オレも、理由ができちまったな」
 彼女と共に、戦う理由が。
「ふん、正当な理由ができてよかったじゃねぇか」
 ヘヘ、と、ジタンは笑った。



***



 ミコトの話では、モンスターの異常発生は恐らく「テラ」という星のクリスタルが関係しているということだった。
 「ジェノム」という人種は、テラがガイアを乗っ取った時、テラのクリスタルに澱んだままになっている古の魂を宿すための体として開発された、いわば魂の器だった。
 それ故、意思を持たなかったはずのジェノムは、生まれつき魂を得たたった一人のジェノム、ジタンの促しにより、自己を意識し、彼ら自身の人生を歩み始めたのだ。
 テラの空間は「クジャ」というジェノムの反乱により崩壊した。しかし、クリスタルはガイアの内部に残り、今でも淡い光を放ち続けているという。
 そして、その死んだようなクリスタルの動きが、ここ十数年で活発化してきている、とも。
「過去にも一度、そういうことがあったの」
 ミコトはそう言った。
「今から四十年くらい前のことよ。テラのクリスタルが放つパワーが次第に増幅し始めたの。異常値に達した時もあったわ。……でも、二十五年前、その増幅は突然止んだ」
 そして、その後十年ほどすると、またクリスタルは力を放出し始めた。
「クリスタルのパワーの変動を時系列に並べてみれば、たぶん―――あなたのお母さんは気付いてしまったはずよ」
 ミコトはガーネットを見つめた。
「その時期が、あなたのお母さんが生まれた頃と、あなたが生まれた頃に合致することを、ね。きっとそのことが、あなたのお母さんを変えてしまった原因かもしれないわ」
 一瞬蒼褪めたガーネットに、しかしミコトは首を横に振った。
「でも、それは間違っているの」
 もっと詳しいデータを取れば―――と、ミコトはそこで少し言い澱んだ。
「ジタン、あなたのお母さんが召喚士であることは知っている?」
「……いや」
 ジタンは小さく頭を振った。
「十四歳の時に、初めて自分が召喚士であることを知ったと言っていたわ。つまり、1825年のことよ」
 ミコトは、テラの力の大きさを線で表したグラフの、ある部分を指した。
「この時」
 上昇し続けていた折れ線がそこを境に急に下降を示し、その後十年は平らな線が続くようになる、変わり目の一点。
 意味がわからず、ジタンは問いただすような目でミコトを見た。
「この時、テラの次世代を担うはずだった人物は、突如潜在していた召喚士の力を発揮した。だから、テラのクリスタルは彼女を、支配者として機能しなくなったと判断したのね」
 ミコトが次に指差したのは、なだらかだった線がまた上昇を始める、一点。
「そして、あなたはこの時、この世に生を受けた」
「ジタン―――!」
 ガーネットが悲痛な声で彼を呼んだ。
 しかし、ジタンは答えなかった。



 本当は知っていた。
 いつか、こんな風に真実を知らされることを。
 いつもどこかで、微かに感じていたのだ。









 懐かしいあの日々から聞こえてくるのは、わたしたちの心を繋ぐ、声。

 たくさんの声が重なって、たった一つの旋律を奏でてゆく。




 あなたの声はいつまでも消えることなく

 永遠にわたしの心に残っているわ。




 そして、

 わたしの歌声もきっと、どこまでもどこまでも響いていく。

 空も海も大地も越えて、遥か彼方遠くまで、ずっと、ずっと―――











-第四章終わり-






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