*前回までのあらすじ*
コンデヤ・パタで出会った少年ビビの案内で、ようやくガーネットの大叔母ミコトの住む村にたどり着いた一行。
そこで、エメラルド女王の変化がモンスターの異常発生に関係していることを聞かされる。
なぜモンスターが異常発生したのか、なぜそのことがガーネットの母を苦しめているのか。
しかし、それを知ることは、ジタンの出生の秘密を明らかにすることだったのだ。
第五章<1>
じっとしていると、色々と考えてしまう。
こんな時だけれど、エーコ老公女の故郷へ向かおうと言い出したのは、ジタンだった。
珍しくも、エーコは戸惑ったような顔をしてジタンを見上げた。
「……いいの?」
「ああ。マダイン・サリに寄って、それからイーファの樹を見に行こうかと思ってさ」
ミコトの話では、イーファの樹は昔、テラの空間と繋がっていたということだった。今は絡まり合った根に阻まれて中まで入っていくのは容易ではないらしいが、それでも見に行かないわけにはいかなかった。
「その後のことは、また考えればいいし」
ジタンはニッと笑った。そしてその顔を見たガーネットが、刹那不安そうに俯いた。
彼らの様子を黙って見ていたミコトは、さりげなく隣にいるビビの背を押した。
「あなたもみんなと一緒に行ってらっしゃい、ビビ」
「え?!」
黒魔道士の少年はびっくりして飛び上がった。
「ど、どうして?」
「みんなが、あなたのことを必要としているからよ」
その言葉に、パーティのメンバーたちは顔を見合わせた。
誰も、ビビが必要だと口にしてはいなかった。しかし、誰もが彼に何か繋がりを感じていたのも確かだった。
ガーネットは、できれば来て欲しいとさえ思っていたのだ。
「来るか?」
ジタンが右手を差し出した。
「い、いいの?」
きっと足手まといだよ、と、ビビは心許なく呟いた。
「村で魔法を使えるのはあなただけだわ」
ミコトが追い風を与えた。
「その子には、いろいろなことを話して聞かせてあるの。きっとあなたたちの役に立つと思うわ」
―――記憶を受け継いだ小さな命。
ずっと昔に、ある黒魔道士が使っていた杖を持ってビビは旅立った。
ミコトは、右手を小さく振って彼と別れた。
―――どうか、無事で。
「ここを通れるのは、『神前の儀』を受けた者だけだド!」
と、ドワーフ族は言った。
エーコ老公女からもらった地図には、コンデヤ・パタから徒歩でマダイン・サリ方面へ向かう道が書いてあったが、その道はドワーフ族の『神前の儀』を受けた者しか入れないと言うのだ。
「なんだそのナンタラのギってのは」
と、ジタン。
「ひとりの男とひとりの女が神に祝福され、夫婦になり、聖地を臨む巡礼の旅に出るために執り行う聖なる儀式だド」
ドワーフ族が説明する。
「……それって、つまりは結婚式と新婚旅行ってことか?」
「その儀式を受ければ、この村の先の聖地へ進めるのね?」
ガーネットが尋ねると、ドワーフはこくこくと頷いた。
「どうする、ダガー」
「うーん……」
ガーネットが困ったように手を頬に当てた時、ふとドワーフが言った。
「そっちの娘ッコ、ダガーっていうドか?」
「はい、そうですけど」
ガーネットは首を傾げて答えた。ドワーフはというと、口をパクパクしながらジタンを指差す。
「オレ? ジタンだけど」
「あぁぁ! オラ覚えてるド! 100番目の記念すべきカップルは『ジタンとダガー』だったド!」
彼はわなわな震える指で、神輿舟の碑文を指差した。
『神主、天守りのカツミによりて天と陽と樹と地の祝福をさずかり聖地に旅立った者ドも』と銘打たれた名簿の中に、その名は刻まれていた。
『第100組 夫ジタン、妻ダガー』
「「……」」
度肝を抜かれ、ジタンもガーネットも黙り込んだ。その代わり、エーコが五人分くらいは騒いだ。
「ちょっといつの間に結婚してるのよ、二人とも!」
ガーネットは刻まれた名前をしばらく凝視してから、ジタンを見た。ジタンもまた、ガーネットを見た。
「これって……」
「とにかく、もう結婚してる二人なら文句はないド。さぁ、旅立つがいいド!」
ドワーフはとてつもない発見に大興奮で、それが五十年も前の記述であることには気付かないらしい。二人が『聖地』へ行くことを認めてくれた。
「エーコたちはどうするの?」
「あ、そうだな。うーん、とりあえずみんな儀式を受けちまえばいいんじゃないか?」
と、ジタン。
「そうすればややこしくないしな」
エーコはとっさにビビの腕を引っ張った。
「エーコはビビと結婚するわ!」
「え?!」
ビビが飛び上がる。
「何よ、エーコと式を挙げるのは嫌なわけ?」
「そ、そんなこと……」
ビビはもごもごと口ごもった。
「いいじゃない、この村にいる間だけなんだから」
「う、うん……」
「じゃ、サラマンダーとクッタがペアだな」
ジタンが殊更可笑しそうに言うと、サラマンダーがきっぱりと言った。
「俺はご免だ」
「そんなこと言うなって、先に進むためなんだから仕方ないだろ」
「……」
「サラマンダー!」
「……」
こんな時、貝のように喋らなくなってしまうのがこの人の常である。
「まったく。じゃぁ、マダイン・サリには俺たちだけで行ってくるから、ここで待ってろよ」
サラマンダーはちらりとガーネットを見た。エーコ老公女に依頼された旅であるだけに、目を離すのはさすがに心配らしい。
「大丈夫だって! 行って帰ってくるだけなんだし」
ジタンはニッと笑って拳を突き出し、親指を立てた。
「この者ドもに、天降る祝福あれ!!」
エーコとビビは向かい合って手を取った。
「幸せね〜、ビビv」
「……う、うん」
いまいち状況の掴めていないビビは、困惑しきった顔で頷いた。
「あとは外の関所にいる双子のドワーフに会ってくるド。そしたら、聖地へ旅立てるだド」
と、神主は説明した。
「無茶はするなよ」
関所まで見送りに来たサラマンダーが釘を刺したが、ジタンはまるで聞いていないかのように、ひらひらと手を振っているだけだった。
「行ってくるな〜!」
「気をつけてアル!」
クッタも手を振った。
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