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「いい天気ね」
ガーネットは嬉しそうに空を見上げた。
本当に、何もかも忘れさせてくれるくらい、空は青く澄み切っていた。
「見て、ビビ! 花が咲いてるわ」
「これ、シロツメクサだよ」
ビビは一本摘むと、ミコトに教わった方法で花の指輪を作った。
「エーコにあげるね」
「わーっ、ありがとう!」
エーコは大事そうに、指輪を指に填めた。
「ねぇ、見て見てダガー!」
「いいわね、エーコ。結婚指輪、よく似合うわよ」
「本当?」
エーコとビビは手を繋いで、はしゃぎながら走り出した。
「お前ら、あんまり遠くまで行くなよ」
と、ジタンが二人に声をかける。
「ダガーもいる? 花の指輪」
「うんん、わたしはいいわ。もうそんなに子供じゃないもの」
ガーネットはクスリと笑った。
「……やっぱり、オトナな王女様にはブランド物のたっかいやつをプレゼントしないとダメか……」
ジタンが一人ぶつぶつ言っている間に、ガーネットもエーコたちを追いかけて行ってしまった。
穏やかな空の上で、雲雀が鳴いた。
ジタンは考え出しそうになったことを、頭の外へ追いやろうと首をブンブン振ったが、上手くいかなかった。
ガイアを滅ぼすために生まれた、祖父。
その血を引き継いだ、自分。
―――ガイアを滅ぼすことを運命に生まれた自分。
ジタンは、恐る恐る息を吐いた。
また、頭上で雲雀がひよろろ、と鳴いた。
始めて出逢った時に感じた、彼女との共通点。
テラと、召喚士の血―――
ミコトは何と言っていた?
モンスターの異常発生は自分のせいだと言っていなかったか?
彼女の父を殺したのは、兄を殺したのは、自分だということなのか?
彼女の母を変えてしまったのは、彼女を苦しめたのは……
「ジタン!!」
その思考は、金切り声で中断された。
はっと顔を上げたジタンは、信じられないものを目にして一瞬棒立ちになった。
「な……」
なぜ、こんなところに。
モンスターだった。牛のような角を生やした、羊のようなモンスター。
姿かたちは可愛いとも言えるが、その強靭さは冒険家の間で知らぬ者はなかった。
その名は、ヤーン。
「手を出すな!」
ジタンは叫んだ。
「もう遅いよぉ」
エーコが泣き出しそうな声で訴えた。どうやら、相手のターゲットはこちらに向いてしまったらしい。
ジタンが追いつくと、既に1ターン回った後で、攻撃を受けたビビが戦闘不能寸前で蹲っていた。
「ジタン、どうしよう!」
ガーネットが常になく憔悴した声で言った。
「とにかく、相手の隙を狙って逃げよう」
ジタンは盗賊の秘儀「とんずら」を発動しようとした。しかし、一度目は上手くいかなかった。
ガーネットは詠唱に入り、エーコがケアルを唱えてビビを回復させる。
相手の攻撃は―――
「ダガー!」
ヤーンは、詠唱しているガーネットを標的に決めていた。
無意識のうちに手足が動いて、ジタンはガーネットを庇った。激しい爆音が轟き、エーコとビビは震え上がった。
「ジタン!」
しかしガーネットは、震える口唇で詠唱を続けた。恐ろしくて足が震えたが、やめてしまったら最後、ここにいる全員が二度と青空の下を歩けないことはわかっていた。
おばあさま、力を―――!
「オーディン!」
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