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 アレクサンドリアにミコトが訪ねてきたのは、それから数日が過ぎた後だった。
 相変わらず忘れ去られた大陸では死闘が繰り広げられていたが、打つべき手立てを思いつかない状態だった。


「本当に、全部終わらせたいと思っているのね?」
 ミコトは確認のために、もう一度そう尋ねた。
 ジタンは確かに頷いた。
「何が起こるかわからないのよ?」
 その言葉に、同席していたサフィーが小さく悲鳴を上げた。
「それでも、終わらせたいのね?」
「ああ」
 ミコトは深い溜め息をつくと、それからたっぷり五分は黙り込んで、何かを思い巡らせていた。やがて、
「方法は、あると思うの」
「本当に?」
 ガーネットが切羽詰った表情で尋ねる。
「ええ。ただ、何が起こるかはわからないわ。最悪の場合、ジタンの命を保障することはできない」
「ミコト叔母さま……!」
 エメラルド女王が悲痛な声で呼び掛けた。
「どうにかならないの、ミコト?」
 エーコが取り成すように言ったが、ミコトは頭を振った。
「私は、気休めだけの言葉は言いたくないの」
「わかってるけど……」
 老公女は、彼女の性格をよく知っていた。
「とても危険な賭けよ。もしかしたら、あなたの精神を奪われるかもしれない。昔あなたのお祖父さんがそうだったように、あなたも操られるかもしれないわ」
 隣で老公女が息を呑んだのを感じ、ミコトは彼女を見ながら頷いた。
「その時に上手く自分を取り戻せなければ、あなたはテラの支配者として利用されてしまうのよ」
「そんなことにはならない」
 ジタンが強く否定した。
「オレは、自分を失ったりしない。絶対に」
「この世に『絶対』はないわ」
 ミコトはその言葉を批判した。
「それでもオレは終わらせたいんだ」
 ジタンは真っ直ぐ、大叔母の目を見た。
 決心は揺らがなかった。ここで終わらせなければ、このまま永遠に誰かが苦しまされ続けるような気がした。
 両親が自分を欲しがってくれたことはわかった。自分を産んだことを後悔していないこともわかった。それでも、次に生まれてくる自分の子供がいるのだとしたら、その子にはそんな重荷を背負わせたくなかった。
 そのためには、全てを自分が終わらせておかねばならない。
 自分の子がまた子を育み、その子がまた子を育み―――そう考えていくと、気が遠くなりそうだ。
「……わかったわ」
 ミコトはついに頷いた。
「終わらせる方法は一つよ。ガイアのクリスタルとテラのクリスタルを本当の意味で融合させること」
「融合……?」
「元々、テラはガイアの若いクリスタルを取り込むつもりでいた―――テラとの融合を図ることで、テラの永遠を守るはずだったのよ。……でも、それは上手くいかなかった」
 ミコトは小さく頭を振った。今から思えば、何と恐ろしいことか、と。
「今でもガイアのクリスタルの近くにテラのクリスタルがあるせいで、ガイアを不安定にさせていることは間違いないの。だから、あなたを媒体にしてテラとガイアを完全に融合させる。テラとガイア、両方の血を引いたあなたなら、もしかしたら可能かもしれないわ」
「確かにそうね」
 エーコも頷いた。
「あんたのお祖父さんは純粋なテラの人間だったから、ガイアのクリスタルに受け入れられるのは難しかったでしょうし、サフィーは召喚士だから、今度はテラのクリスタルに受け入れられそうにないものね」
「でも、危険なことに変わりはないわ」
 ミコトは釘を刺すように言った。
「テラのクリスタルは長く魂の循環がないから、今ならガイア側の方が遥かに強大な力を持っているはず。だから、ガイアがテラを融合する形になると思うの」
 実際にクリスタルを見たことがあるエーコ老公女はともかくも、その場にいた他の全員には想像するのも難しいような、壮大な話だった。
「とにかく、そのためにはクリスタル・ワールドへ行かなければならないわ。五十年前に空いていた時空穴は閉じてしまったから、他の方法を探さないと」
 ミコトは立ち上がった。
「忘れ去られた大陸へ向かいましょう。テラの古い史跡がまだ残っているから」
 その言葉に、ガーネットが小さく息を呑んだ。


 ―――忘れ去られた大陸は、彼女の父たちが戦死した地だった。









 あの日からずっと、暗闇の中を

 当てもなく彷徨っているの。




 わたしの心の中にあなたが残していった

 小さな愛の証拠を探し続けているの。




 あなたがくれた思い出の一つ一つを拾い上げ、

 織り重ねて創ったあの歌を、



わたしは歌う。





 ―――あなたはもう、帰ってこないけれど。













-第七章終わり-






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