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「ここがその何たらプレス?」
エーコは飛空艇の上から小さな入り口を指差した。
「うん。昔、クジャはここにガイアでの基点を置いていたんだ」
「なら、ここに何か手掛かりが残されていても、不思議ではないのじゃな」
フライヤが言うと、ビビは頷いた。
「仕掛けの多いところだから、みんな気を付けてね」
「了解アル」
飛空艇は近くまで寄せて四人を降ろすと、事前の計画通り再び忘れ去られた大陸へと飛び立っていった。それを見上げながら、フライヤが呟いた。
「退路を奪われた気がするのう」
「何かあったらボビィを呼ぶから大丈夫だよ」
ビビは、腰に括り付けられた小さな布袋をフライヤに示した。そこにはチョコボの好物が詰められていた。
「ボビィ=コーウェンは、ボクの一番の友達なんだ」
ビビが金色の瞳で微笑んだ時、「ちょっと何グズグズしてるの!」とエーコが飛び跳ねて二人を呼んだ。
デザートエンプレスは主を失ってから久しかったものの、予想したほどは荒れた様子もなかった。ビビはミコトに教わった入り口を探した。青い魔方陣のような光りに触れると、全員ホールのような場所に飛んだ。
「中に入れたの?」
エーコが訊き、その問いにビビは頷いた。
長い渡り廊下を渡った先には大きな部屋があり、たくさんの書物が置かれていた。
「まずはここから調べるかの」
フライヤが側の本を手に取り、クッタは鼻をふんふんと鳴らした。
「嗅ぎ慣れない匂いアル」
「うん、ここはテラの遺跡だからね」
ビビがそう答えた。
「こっちには何があるの?」
エーコは部屋の反対側を覗き込んだ。
「あ、エーコ。あんまり歩き回ると危ないから……」
それを注意しかけたビビが息を呑んだ。
「そっちはダメ!」
「え?」
カタンと足場が外れ、エーコは空間へ投げ出された。慌ててフライヤが飛び出して彼女の身体を捕まえたが、二人とも下の階まで落ちてしまった。
「アイヤー、大変アル」
「大丈夫〜?」
ビビとクッタが覗き込むと、崩れた天井の隙間から、どこかの小部屋に二人がいるのが見えた。
「大事ない、エーコも無事じゃ!」
と、随分下の方からフライヤの声が響いた。
「ああ、よかった……」
ビビは腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
「でも、どうやってここまで戻るアル?」
高さ自体はフライヤの脚力なら上がれなくもなかったのだが、一度どこか壁にでもぶつかったのか、真っ直ぐ飛べない場所に落ちていた。天井に空いた穴の大きさから言っても、エーコを連れて上がるとなると、ほとんど不可能に近かった。
しかも、悪いことに。
「きゃ、何これ!?」
「エーコ、こっちへ来るのじゃ!」
「どうしたの〜!?」
ビビは再び覗き込んだ。そして、彼は大変なことを思い出した。この城には牢獄があって、その床は機械仕掛けで開閉する、ということを。
「ど、どうしよう……!」
ビビは立ち上がった。下からはエーコの悲鳴が聞こえる。きっと仕掛けが始動してしまったのだ。そうなると、もう一刻の猶予もなかった。
「クッタ、こっち!」
「どうしたアルか、急に」
ビビはホールへ戻ると、来たのとは逆の魔方陣に乗って大階段へ出た。そこを一気に駆け降り――急いでいるつもりだったが、何度も躓いて転びそうになった――書庫へ出た。途中何度かモンスターと出くわしたが、とにかく時間がないので逃げ回った。吹き抜けへ出て、一度道を間違えて戻り、神殿のような場所を通り過ぎて、ようやく牢の前まで来た。
「エーコ! フライヤ!」
ビビは肩で息をしながら呼びかけた。
「どうなっておるのじゃ、これは」
「怖いよぉ」
エーコの泣き声が聞こえて、ビビはますます慌てた。
「ど、どうしよう、ボク……!」
どうすれば床の仕掛けが解けるのか、ビビは咄嗟に思い出せなかった。力ずくで牢の戸を開けてみようとしたが、そんなことで簡単に開くような代物ではない。
「落ち着くのじゃビビ。まだ時間はある」
フライヤが、戸の向こうから冷静な声で諭した。
「おぬしならできる。落ち着いて考えるのじゃ」
「う、うん……」
「そういう時は、深呼吸アル」
クッタが一緒に深呼吸してくれた。それで、ビビはやっと仕掛けの解き方を思い出した。
「こっち!」
来た道を戻り、左の部屋へ飛び込む。仕掛けのスイッチになっている砂時計があるはずだ。あれを逆に回せば……!
しかし、部屋にはモンスターが巣食っていた。狭い部屋だ、今までのように逃げ回るわけには行かない。
ビビは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
モンスターは彼を見た。
「エーコを……助けなくちゃ」
ビビは自分に言い聞かせた。先祖から伝わる杖を構え、魔法の詠唱を始める。
「ワタシも手伝うアルよ」
クッタが師匠伝来のフォーク技で斬りかかると、モンスターも、久方ぶりの喜ばざる来訪者と認めたらしかった。
数分後、モンスターはクッタが美味しく平らげてしまった。
ビビはすぐに砂時計に走り寄ったが、鍵が掛かっていて回らなかった。
「鍵を探さないと……!」
もう時間がない。砂時計の砂が全部落ちてしまえば、フライヤとエーコは牢の床から砂漠へ放り出されてしまう。
そう考えたら、恐ろしくなって膝が震えた。
「鍵アルか?」
クッタはのんびりと部屋の中を探し始めた。しかし、ビビは一歩も動けなかった。
どうしよう、ボクがちゃんと案内できるってミコトに言ったのに……。二人に何かあったら、ボクのせいだ―――!
牢獄からは再びエーコの悲鳴が響いて、フライヤが「大丈夫じゃ、落ち着くのじゃ」と大声で窘めている。しかし、エーコの悲鳴はやまなかった。
「怖いよ! 助けてビビ……っ!」
助けなきゃ。助けなきゃ―――!
ビビの足が再び動き出した。確か、鍵はモンスターの檻に括り付けられていたはず。今もそこにあるかもしれない。
壊れた檻の残骸を手で掻き分けてみたけれど、それらしいものは見つからない。クッタは部屋の中を見て回っているが、やはり見つかっていないようだった。
砂は、あと少しで落ちてしまう―――!
ビビは時計の元へ走り、魔法を詠唱した。もう他に方法がなかった。機械だから雷には弱いに違いないと、サンダーを唱える。ネジの切れるような音がして、ビビは手に力を込めて時計を回した。
時計は、回った。
「よくやったな、ビビ。偉かったぞ」
二人が部屋から飛び出すと、フライヤとエーコは既に牢から脱出していた。ビビはそれを見ると、安心のあまり思わずその場にへたり込んでしまった。
「よかったぁ……」
「ビビ!」
エーコが駆け寄って、座り込んでいるビビに抱きついた。
「怖かったよぉ」
「うん……ごめん。ごめんね、エーコ」
エーコは泣きながら頭を振った。
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