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まるで、彼を歓迎してでもいるかのようだった。
ジタンの足元には赤く小さな明かりが灯っていた。それは長く一本に続いていて、まるで彼をその場所へと誘っているかのようだった。
ジタンは、誘われるままにその道を進んだ。
テラのクリスタルは、その支配者が訪れる時をただじっと待ち続けていた。ほんの少し離れた場所には、青く輝くガイアのクリスタルがいた。しかし、二つのクリスタルは反発し合うように、それ以上近づくことはできないようだった。
きっと、二つのクリスタルと、そのクリスタルに宿る記憶や魂たちは、お互いの間を行き来できないことを苦しんでいるのだろう。張り詰めた空気は、そのことを如実に伝えていた。
―――オレが、助けなきゃな。
そっとガイアのクリスタルに触れてみる。まるで鼓動でも打っているかのように、そこは力強い生命力に満ち満ちていた。
テラのクリスタルは逆に、力を失った太陽のように、鈍く鬱々とした光を帯びていた。魂の循環を忘れたクリスタルは、もうずっと、長い間哀しみばかりを溜め込んできたのだ。
ジタンはそっと触れてみた。それは労わりの心からだった。きっと、そんな運命を辿ることを、誰も望んではいなかったはずなのだ。この、クリスタルさえも。
そして、その瞬間だった。
二つのクリスタルは激しく光を放出し、あまりの勢いにジタンは目を瞑らざるを得なかった。まるで、身体の中を光が掻き回していくような感覚が走った。
いや、実際にそうだったのかもしれない。
閉じた目の中にさえ、光は浸食してきた。テラのクリスタルから無数の魂が、発光しながら彼の身体を通り過ぎ、ガイアのクリスタルへと勢いよく流れていった。
ジタンは足元を掬われて、その流れに攫われそうになる。どうにか踏ん張ろうとしたが、勢いは増すばかりでとても勝てそうになかった。
数え切れないほどの光の粒が、彼の中を駆け巡って彼を連れ去ろうとしていた。最早抗うことは叶わないと、ジタンは諦めかけた。
その時だった。
ジタンは誰かに、思い切り肩を押された。
その反動で、彼は光の流れから一人離れ、ふわりと宙に投げ出された。
はっとして顔を上げると、銀色の長い髪をした男が、他の魂たちと同じように赤い光を纏いながら、擦れ違い様にふっと笑ったのと目が合った。流れていく魂たちの中で、初めて顔を判別できる相手と会った。
「あ……」
どうしてか、ジタンはその人を知っている気がした。
しかし、そんなことを考える内に、彼の身体は暗闇へと堕ちていってしまった。
「姫さま、あれを……!」
スタイナーが空を指差した。
飛空艇は次元の狭間を超えることができず、彼らは身一つで時空穴に放り出された。そして、気付くとイーファの樹の根元にいたのだった。
それから数日が経っていた。
「あ、月が!」
エーコが一際高い声で異常を知らせた。
赤と青の月が……長い間『双子の月』として親しまれた赤と青の月が、まるで昼間の太陽のようにギラギラと光り輝いていた。
「何が起きたのじゃ」
「……やったのか」
サラマンダーがぼそりと呟いた。
赤い月は徐々に光が治まり、やがて淡い青い光を発し始めた。
「融合が上手くいったんだ」
ひどく小さな声で、ビビがそう言った。
それから何日も待ったが、ジタンは戻ってこなかった。
誰も明確にそうとは言わなかったが、そうなのかもしれないと思わずにはいられなくなっていた。
クリスタルの融合が上手くいったなら、どうして彼は戻らないのか?
その答えは、一つしかなかった。
アレクサンドリアの艦隊がイーファの樹の側にテントを発見し、エメラルド女王が直々に迎えにやってきた。
しかし、彼らの中に、彼女の甥の姿はなかった。
それを知った瞬間、エメラルド女王はきつく目を閉じた。
そんな結果を、誰が求めただろうか。そんな犠牲を、誰が望んだだろうか?
「ガーネット」
呆然としたまま立ち尽くしている娘を、女王は強く抱き締めた。
「わたし……信じられないわ」
震える声で、ガーネットはそう言った。
「信じられるわけないわ! だって、ジタンは、ジタンは……」
必ず帰ると、彼は言った。どこで何をしていても、必ず帰ると―――!
「そうよ、彼は生きているわ」
エメラルド女王の声は、はっきりとしていた。
「あなたが信じる限り、彼はどこかで必ず生きているわ」
本当? と、ガーネットは小さな声で呟いた。
「本当よ」
エメラルド女王は念を押すように、力強く頷いた。
ガーネットの瞳から、大粒の涙が零れ出した。
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