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「そう、これが『ダガー』なのね」
「まさか、実物見たことないとはね」
「騎士剣ならよく見かけるけれど、こんな短い剣を見たのは初めてよ」
「まぁ、盗賊なんかが使う剣だからな。城の中じゃ見かけなくても当たり前さ」
「あなた、盗賊なの?」
「そ。タンタラスはみんな盗賊だ」
「まぁ! それじゃぁ、劇団っていうのは……」
「それも、ホント。昔さ、タンタラスの創始者が盗賊やりながら劇場艇を買ったんで、こうしてアレクサンドリアにまで公演に来るようになったってワケ」
「そうだったの……あ、ねぇ! あなたのご両親は? なにをなさっている方なの?」
「タンタラスで盗賊だよ。なんで?」
「そう―――アレクサンドリアと、何か関係がおありなんじゃないかと思って」
「いや、ないと思うな……でも、どういう意味だい?」
 ガーネットはじっと、青い目を見つめた。
 似ている。
 こんなに似ているのに、他人の空似?
 それとも、リンドブルムにはこんな風体の人間がたくさんいるのだろうか?
「いいえ、なんでもないの。気にしないで」
「そっか?」
 少し首を傾げた少年に、ガーネットは頷いて見せ、
「リンドブルムへは、どれくらいで着くの?」
 と、話を変えた。
「う〜ん。二時間半、ってところかな。特急と違ってスピード出ないから」
「お芝居が終わるのはいつ?」
「え〜っと……あと、一時間」
 と、時計に目をやる。
「そう……ありがとう」
 ガーネットは俯いた。
 大それたことをしているという緊張感と少しの不安と。ワクワクする気持ちと。
 母を心配する想い……これが、一番強い。
 自分が城を出たと知ったら、お母さまはどうなさるかしら……?
 これ以上、お母さまを苦しめたくはなかったけれど―――
「ダガー?」
 ジタンに顔を覗き込まれ、ガーネットははっとした。
「あ、あの、ごめんなさい」
「大丈夫か?」
「ええ、もちろん」
 にっこり微笑んで見せると、ジタンは幾分不機嫌そうな顔になる。
「なぁに?」
「いやさ―――うちの母親と同じような顔するな、と思ってさ」
「……?」
「最近、よくそういう顔するんだ。何か隠してんだよな、きっと」
「―――ジタン……」
「なんてな。ダガーにそんな話してもしょうがないよな」
 ニッと笑って頭を掻く。
 その仕草に、ガーネットの胸は奇妙に騒いだ。
「あなたのお母さまに、お会いできたらいいのに」
「ん〜、じゃぁ。来るか? アジト」
「いいの?」
「ああ、いいさ。いつでも誰でも大歓迎! 特に、可愛い女の子はね」
 と、片目を瞑る。
「へぇ、そうなの」
 と頷く姫さまにずっこけつつ。
 ジタンは小さく苦笑いを浮かべた。


 なかなか、手強そうだ―――。


 ……と。








 ―――ねぇ。

 わたしたちが出逢ったのは

 偶然だった?

 それとも、運命だったの?




 わたしがこうして一人ぼっちになってしまったのも

 偶然なこと?

 それとも、やっぱり運命だったのかしら……

 ―――今も、わたしの心の中で

 こんなにもあなたの声は響き続けているのに。




 わたしの耳には、今でも

 あの歌が、聞こえるの。

 あなたと歌った、あの歌が―――










-第一章終わり-






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