*前回までのあらすじ*
鎖国下にあったアレクサンドリアに、リンドブルムから劇場艇が来る……!
アレクサンドリア王女ガーネットは、彼女の16歳の誕生日を祝う芝居が催されるその日、
劇場艇に忍び込んでリンドブルムへ向かうことを決意する。
一方、劇場艇プリマビスタの乗組員、タンタラス団は、
リンドブルム老公女からある依頼を受けていた。
部屋を抜け出したガーネットと、タンタラスの一員ジタン。
二人は、運命的な出会いを果たす……
ジタンは、リンドブルムへ連れて行ってほしいというガーネットを、「誘拐する」と宣言した。
第二章<1>
劇場艇は予定通り公演を終え、今はリンドブルムへ向かっていた。
「で、こいつが従兄のブランク。こっちがマーカス。飛空艇技師のシナ」
「こんにちは」
ペコリとお辞儀するガーネットに、紹介を受けた彼らは揃って意外そうな顔をした。
「オイラ、お姫様って言うからお高く留まってるのかと思ってたずら」
「俺もっス!」
「そういう失礼なこと言わんの、あんたたち!」
突然、跳ね戸を上げてプラチナブロンドの頭が現れた。
「おっと、で、これが従姉のルビィ」
「これってなんやねん、ジタン!」
こつんと頭を叩く。
「いて。凶暴だけど悪い奴じゃないからさ」
それにもかかわらずさらに説明するジタンのお尻に、ルビィは蹴りを一発食らわせた。
そして、にっこりとガーネットを振り向いた。
「女同士やし、何でも気軽に言うてや?」
「は、はい、ありがとうございます」
「もっと気楽にしたらええやんか〜」
きゃっはっは、と笑うと、ルビィは去っていった。
「あいつさ、変な喋り方だろ? あれさ、うちのばあちゃんの喋り方なんだ」
「ばあちゃんっ子だったからな、ルビィは」
後を継ぎ、ブランクが言う。
「おばあさまは?」
「三年前に死んだ。百まで生きるとか言ってたんだけどさ」
ジタンとブランクは顔を見合わせてくっくと笑った。
「おい、お前ら。いつまで和んでんだ?」
今度は跳ね戸から茶色い頭が現れた。
「げ、父さん」
「リンドブルムに着いた後の段取りは出来てんのか?」
「―――まだ」
ジタンの父親、ジェフリーは一度しかめっ面をすると、ガーネットに、親しげに微笑んだ。
「悪いね、こんな狭くて汚い部屋に押し込めて。居心地悪くないかい?」
「大丈夫です」
ガーネットもにっこり笑い返した。
ジタンとジェフリーは容姿こそあまり似ていないものの、雰囲気はよく似ている。
「あの、ジタンのお父さま」
「なんだい?」
「ご迷惑をおかけして、すみません」
ガーネットが頭を下げると、ジェフリーは驚いた顔をして、しかしすぐに笑った。
「迷惑なわけないだろう? それに、こっちも元々これが仕事だったんだから、全然気にしなくていいんだよ」
ガーネットは顔を上げ、次にジタンを見つめた。
「? 何?」
しかし、彼女は首を振る。
―――仕事、だったのよね。
わたしは、あなたを信じて誘拐してもらったけれど。
……この気持ちは一方通行かも知れない。
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