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 「ぎゃーーーーーーー! 誰だお前はっ!」
 「……煩い」
 「何? 何事よ?」
 「あら?」
 ジタンが上げた悲鳴を聞きつけ、エーコとガーネットも走り寄ってきた。
 「あなたは、もしかしてクイナ料理長ではありませんか?」
 ガーネットが尋ねる。
 「ちょっと、ダガーってば知り合いなの?」
 エーコに問われ、ガーネットは首を傾げた。子供心に覚えていた料理長にそっくりだが、どこか違う雰囲気もある。
 「ワタシはクッタというアル。クイナ師匠はワタシのお師匠さまアル」
 と、白い化け物は自己紹介した。
 「まぁ、クイナ料理長のお弟子さんなのね」
 「そうアル。師匠を料理長と呼ぶってことは、もしかしてアレクサンドリアの人アルか?」
 「ええ。わたしはアレクサンドリア王……」
 「待った!」
 と、ジタンはガーネットの口を手で塞いだ。
 「こいつ、見るからに怪しい奴だし。迂闊に身分を明かすのはどうかと思う」
 「……ジタン、それもう言ってるも同然だと思うけど」
 エーコが肩を落とす。
 「もしかしたら、ガーネット王女アルか?」
 と、クッタは突然声を上げた。
 「きっとそうアル。師匠はいつも王女の話をしてくれたアル。優しくて美しい王女様だったと言っていたアル」
 「……ほらぁ、バレたじゃないの」
 「お前のせいだな」
 「な、何だよ!」
 気まずそうなジタンにクスクスと笑うガーネット。
 「いいのよジタン。クッタはクイナ料理長のお弟子さんだもの、ちっとも怪しくなんてないわ」
 「……どう見ても怪しげだぜ」
 と、その時。
 「失礼なことを言うアルね」
 クッタよりさらに大柄な化け物が乱入した。
 「アイヤ〜、ジタンアルね! 久しぶりアル!」
 と、化け物は嬉々としてジタンの手を掴み、振り回した。
 「い、痛い痛い! 誰なんだよあんたは!」
 「忘れたアルか。クイナアル」
 「忘れたも何も、初対面だろうが、初対面! なんでオレの名前知ってるんだよ!」
 クイナははて、と首を傾げ、一行を見渡した。
 ジタン、ガーネット、エーコ、サラマンダー。
 ……あまり見たことのないカルテットだ……。
 「クイナ料理長、お久しぶりです」
 ガーネットが一歩歩み出ると、クイナは再び「アイヤ〜!」と声を上げた。
 「ガーネット王女アルね! 久しぶりアル。すっかり大きくなって、おばあさんに似てきたアルね」
 少女は幾分頬を染め、はにかんだ微笑を浮かべた。
 「ねぇねぇ、蛇モドキのオバケさん」
 エーコがクイナに歩み寄り、服の裾を掴んで引っ張った。
 「どうしたアルか、エーコ」
 「あたしたち、フォッシル・ルーへ行きたいの。入口がどこだか教えてちょうだい!」
 「……生意気な口を利く子供アルね」
 クイナは「さすがエーコアル」と呟きながら、弟子のクッタを振り返った。
 「クッタ」
 「何アルか、師匠?」
 「この人たちを、採掘場に案内するアル。これはお前の仕事アル。それから、ついでに、一緒に外の世界を旅してくるといいアル」
 「旅アルか?」
 クッタはキョトンと、師匠を見上げた。
 「そうアル。立派なク族となるためには、外の世界でたくさんの食べ物を食べて成長することが必要アル」
 クイナは再び一行に向き直った。
 「ジタン、ガーネット姫、お願いアル。クッタはまだク族としては若い子供アルが、しっかりした子アル。きっと何かの役に立つと思うアル。一緒に旅に連れて行って欲しいアル」
 「はぁ?」
 と、ジタン。
 クイナは、変わった形の帽子の奥の目を、きらりと光らせた。
 「嫌アルか? 嫌なら嫌でいいアルよ。採掘場の入口は自分たちで探すといいアル。何日かかってもワタシたちは手伝わないアル」
 「……って、それほとんど脅しじゃねぇ?」
 ジタンはため息をつき、ガーネットを見る。
 「わたしは一緒に行きたいわ。クイナ料理長のお弟子さんですもの、きっと楽しくなるわ」
 「う〜ん……」
 「ね、ジタン。お願い」
 ガーネットは考え込むジタンの顔を覗き込んだ。
 ……ヤバイ。こんなカワイイ顔で頼まれたら……。
 「わかった! いいぜ」
 「本当?」
 「ああ。こうなったら、化け物でも何でもどんとこい!」
 「ク族は化け物ではないアル」
 クッタが頬を膨らませて抗議した。
 
 
 
 ***
 
 
 
 「やっぱり、血は争えないアルね〜」
 と、旅立っていく彼らの背中を眺めながら、クイナは小さく呟いた。
 「……いよいよ、始まるアルね」
 クイナは、寒々と流れる霧の向こう、青い青い空を見上げた。
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 わたしは、
 
 あの人に巡り逢ってしまった。
 
 笑顔を知ってしまった。
 
 ぬくもりを知ってしまった。
 
 
 
 
 そして
 
 
 
 
 あの日、永遠に別れた―――。
 
 
 
 
 神様、お願いです。
 
 わたしたちの物語が……もう誰も語ることのないあの物語が、
 
 確かにここに在ったのだと、信じさせてください。
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 -第三章終わり- 
 
 
 
 *****
 
 ということで、クイナの3世はホントの3世ではなく、弟子でございました(笑)
 クイナより小柄で、ク族の中ではまだかなり若いらしいです。
 
 
 
 
 
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