<3>
「ぎゃーーーーーーー! 誰だお前はっ!」
「……煩い」
「何? 何事よ?」
「あら?」
ジタンが上げた悲鳴を聞きつけ、エーコとガーネットも走り寄ってきた。
「あなたは、もしかしてクイナ料理長ではありませんか?」
ガーネットが尋ねる。
「ちょっと、ダガーってば知り合いなの?」
エーコに問われ、ガーネットは首を傾げた。子供心に覚えていた料理長にそっくりだが、どこか違う雰囲気もある。
「ワタシはクッタというアル。クイナ師匠はワタシのお師匠さまアル」
と、白い化け物は自己紹介した。
「まぁ、クイナ料理長のお弟子さんなのね」
「そうアル。師匠を料理長と呼ぶってことは、もしかしてアレクサンドリアの人アルか?」
「ええ。わたしはアレクサンドリア王……」
「待った!」
と、ジタンはガーネットの口を手で塞いだ。
「こいつ、見るからに怪しい奴だし。迂闊に身分を明かすのはどうかと思う」
「……ジタン、それもう言ってるも同然だと思うけど」
エーコが肩を落とす。
「もしかしたら、ガーネット王女アルか?」
と、クッタは突然声を上げた。
「きっとそうアル。師匠はいつも王女の話をしてくれたアル。優しくて美しい王女様だったと言っていたアル」
「……ほらぁ、バレたじゃないの」
「お前のせいだな」
「な、何だよ!」
気まずそうなジタンにクスクスと笑うガーネット。
「いいのよジタン。クッタはクイナ料理長のお弟子さんだもの、ちっとも怪しくなんてないわ」
「……どう見ても怪しげだぜ」
と、その時。
「失礼なことを言うアルね」
クッタよりさらに大柄な化け物が乱入した。
「アイヤ〜、ジタンアルね! 久しぶりアル!」
と、化け物は嬉々としてジタンの手を掴み、振り回した。
「い、痛い痛い! 誰なんだよあんたは!」
「忘れたアルか。クイナアル」
「忘れたも何も、初対面だろうが、初対面! なんでオレの名前知ってるんだよ!」
クイナははて、と首を傾げ、一行を見渡した。
ジタン、ガーネット、エーコ、サラマンダー。
……あまり見たことのないカルテットだ……。
「クイナ料理長、お久しぶりです」
ガーネットが一歩歩み出ると、クイナは再び「アイヤ〜!」と声を上げた。
「ガーネット王女アルね! 久しぶりアル。すっかり大きくなって、おばあさんに似てきたアルね」
少女は幾分頬を染め、はにかんだ微笑を浮かべた。
「ねぇねぇ、蛇モドキのオバケさん」
エーコがクイナに歩み寄り、服の裾を掴んで引っ張った。
「どうしたアルか、エーコ」
「あたしたち、フォッシル・ルーへ行きたいの。入口がどこだか教えてちょうだい!」
「……生意気な口を利く子供アルね」
クイナは「さすがエーコアル」と呟きながら、弟子のクッタを振り返った。
「クッタ」
「何アルか、師匠?」
「この人たちを、採掘場に案内するアル。これはお前の仕事アル。それから、ついでに、一緒に外の世界を旅してくるといいアル」
「旅アルか?」
クッタはキョトンと、師匠を見上げた。
「そうアル。立派なク族となるためには、外の世界でたくさんの食べ物を食べて成長することが必要アル」
クイナは再び一行に向き直った。
「ジタン、ガーネット姫、お願いアル。クッタはまだク族としては若い子供アルが、しっかりした子アル。きっと何かの役に立つと思うアル。一緒に旅に連れて行って欲しいアル」
「はぁ?」
と、ジタン。
クイナは、変わった形の帽子の奥の目を、きらりと光らせた。
「嫌アルか? 嫌なら嫌でいいアルよ。採掘場の入口は自分たちで探すといいアル。何日かかってもワタシたちは手伝わないアル」
「……って、それほとんど脅しじゃねぇ?」
ジタンはため息をつき、ガーネットを見る。
「わたしは一緒に行きたいわ。クイナ料理長のお弟子さんですもの、きっと楽しくなるわ」
「う〜ん……」
「ね、ジタン。お願い」
ガーネットは考え込むジタンの顔を覗き込んだ。
……ヤバイ。こんなカワイイ顔で頼まれたら……。
「わかった! いいぜ」
「本当?」
「ああ。こうなったら、化け物でも何でもどんとこい!」
「ク族は化け物ではないアル」
クッタが頬を膨らませて抗議した。
***
「やっぱり、血は争えないアルね〜」
と、旅立っていく彼らの背中を眺めながら、クイナは小さく呟いた。
「……いよいよ、始まるアルね」
クイナは、寒々と流れる霧の向こう、青い青い空を見上げた。
わたしは、
あの人に巡り逢ってしまった。
笑顔を知ってしまった。
ぬくもりを知ってしまった。
そして
あの日、永遠に別れた―――。
神様、お願いです。
わたしたちの物語が……もう誰も語ることのないあの物語が、
確かにここに在ったのだと、信じさせてください。
-第三章終わり-
*****
ということで、クイナの3世はホントの3世ではなく、弟子でございました(笑)
クイナより小柄で、ク族の中ではまだかなり若いらしいです。
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