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 両手で耳を塞いで、蹲ったまま何秒か過ごした一団は、やがて顔を上げて辺りを見回した。
 見回したってここはアレクサンドリア、何かが変わるわけでもなかったのだけれど。
「ブ、ブランク……?」
 ジタンが震える声で呼びかける。無線からは何も聞こえてこない。
「おい、返事しろよ――」
 最悪の事態を思い、ジタンの声がますます震える。
 しばしの沈黙の後、無線機の向こうでニヒルに笑った気配がして。
『おう、生きてるぞ』

 その瞬間、全員がわっと歓声を上げた。ガーネットとエーコは思わず抱き合った。

「やっぱり青で合ってたんだな!!!」
 ジタンが勢い込むと、少し間があってから、
『いや、赤を切った』
「……は?」
 ブランクは鼻を鳴らして笑った。
『お前は肝心なところで最後の詰めが甘いからな。これも今までの苦労と経験の賜物だぜ』
「……お、お前は……」
 思わず力が抜けてすとんと座り込んでしまう。
 もしかしたら、大事な親友を失っていたかもしれない。今になってどっと冷や汗が出てきたジタンだった。



***



 倉庫の出口のところで、ジタンがふと立ち止まった。
「ダガー、左手」
「え?」
 ガーネットは自分の左手を見つめた。
「こっちは怪我なんてしてないわ」
「本当に? ちゃんと見せて」
 ジタンは手を差し出して待っている。ガーネットは小さく溜め息を吐いて、左手を乗せた。
「ほら、大丈夫でしょう?」
 左手は傷一つなく無事だったが、そんなことは先刻承知だったのだ。
 ジタンはにっと笑って、ポケットから指輪を取り出した。
「これ、落し物」
「あ」
 倉庫の高窓からガーネットが投げた、大事な婚約指輪。薬指に納まったそれを、彼女はじっと見つめた。
「とっさでも投げたりして……ごめんなさい」
 見上げると、ジタンは笑ったまま、首を横に振っていた。
「これのおかげで君を見つけられた」
 ジタンが目元にキスすると、ガーネットも思わず笑った。
「ちょっとー、そこの二人! いちゃつくのは後にしてよね、後!」
 と、少し先を歩いてたエーコが振り向いて非難し、一同は笑い声を上げた。



***



 それから半月が過ぎ、事件も落ち着いた頃だった。


「ダガー、ごめん」
 帰ってくるなり頭を下げるジタンに、ガーネットは目を丸くした。
「どこか怪我したの?」
「いや」
「勝手しすぎてクビになったとか?」
「……いや」
「まさか、可愛い若い女の子と浮気した?」
「…………ダガー」
 ジタンは観念して顔を上げた。
「教会のキャンセル、出なかったんだ」
「え?」
「結婚式のキャンセルの話。結局ただの痴話喧嘩だったらしい」
「まぁ」
 ガーネットは一瞬残念そうな顔をしてから、微笑んだ。
「でも、良かったわ。仲直りしてくれて」
 どこの誰だか知らない二人だけれど。ガーネットはそう言って笑った。
「そういうとこお前らしい」
「そう?」
 ガーネットは冗談っぽく肩を竦めて、もう一度笑った。
「そういえば、手紙が来てたの。ビビから」
「ビビから?」
 ジタンが不思議そうな顔をするので、ガーネットはふふ、と笑ってエプロンのポケットからそれを出した。
「二人宛てだったからまだ開けてないのよ。一緒に読みましょ」



     *



ジタン、おねえちゃん

ご結婚おめでとうございます。
結婚式は ぜひ黒魔道士の村で挙げてください。
その日はきっと ボクも見に行きます。

                       ビビ





-Fin-







9周年おめでとう!! ということで、大スペクタクル(あくまで当社比)作品を手がけてみました。
気付けば色々自分の萌えを詰め込んでしまいました(笑)
あちこちツギハギでストーリーも薄っぺらではありますが、自分的には楽しかったです。

この話は、実は9オンリーの時に『Snowflake』とどっちを刷ろうか迷っていたネタだったのですが、
今回9周年のお祝い作品として上げるにあたり、ネット用に修理して、話もかなり軽くしました。
また犯人らへんの描写が少ないですが…その辺はあまり萌えないので(爆)
ジタガネにフォーカスして頑張りました(笑)
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
2009.7.7




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