<6>



「オレたちは正面から行く。プルート隊は後ろを突いてくれ」
「わかったのである」
「ダガーは奥の……」
 と、ジタンは簡単に書いた倉庫の設計図を指差した。
「この部屋にいる。サラマンダーとクイナに引き付けてもらってる間に、オレとエーコで突っ込む」
「了解」
「ダガーに先に知らせられると良かったんだけど……」
 エーコが困ったように呟いた。
「たぶん、そろそろ来る頃だってことはわかってるはずだ」
 ジタンが言うと、隣でクイナが頷いた。
「ダガーなら、ジタンの行動パターンはお見通しアルな」
 いろいろと突っ込みたい言い草だったが、事態が事態なのでジタンは飲み込んだ。
「それじゃ、5分後に一斉突入だ」


 プルート隊が裏へ回る間、ジタンたちは正面入り口前で待機した。
「ジタン」
 不意に、サラマンダーが口を開いた。
「無茶はするな」
「……そんなことわかってるよ」
「お前が無茶をすれば向こうが危ない。冷静に判断しろ」
「……わかってるっての!」
 サラマンダーは空に向かって溜め息を吐く。エーコがその足をつんつんと指で突っついた。
「エーコに任せてよ」
 それがまた危ないのだと、サラマンダーは口には出さねど態度で示した。


「そろそろだな」
「いつでもOKよ!」
 エーコが笛を振り回して右手を振り上げた。
「クイナ、サラマンダー、頼んだ」
「了解アル」
 ガシャン、と正面の入り口が開く。ほぼ同時に裏の方でも音がして、何人かが怒号を上げたのが聞こえた。
「突入!」
 わあああぁぁ、と声が上がり、まずサラマンダーが雑魚を蹴散らす。クイナが青魔法で第二波を食い止めた。
「行け!」
 サラマンダーが顎で指し示した先、ガーネットが捕らえられている方向に扉があった。
 ジタンはエーコを連れて扉を潜る。その先に、刺客が三人待っていた。
「ちっ」
「エーコに任せて!」
 笛をくるくると回して構えると、エーコは詠唱して召喚獣を召喚した。
「マディーン!」
 あたりがキラキラと発光すると、敵方は明らかに虚を突かれてうろたえた。
「ジタン、先に行って! ダガーを守って!」
 エーコが叫ぶ。
 ジタンは一瞬惑ったが、思ったより敵の人数が多く、ガーネットが危険だと判断した。
「エーコ、頼んだ!」
「りょーかい!」
 相手が怯んでいるうちに、次の詠唱を始めているのが見えた。ジタンは、ガーネットのいる部屋へ飛び込んだ。


「そこまでだ」
 その瞬間だった。
「それ以上近づかないほうがいい、ジタン」
 名を呼ばれ、一瞬竦む。姿は見えないが、声に聞き覚えがあった。
「……なんであんたがここにいる、ロブ」
 ロブ。ジタンの班にいる傭兵の一人だった。愛想のいい方ではなかったが、考え方がしっかりしていて、皆の信頼も厚かった。
 ふ、と笑う声が響き、ギラリと刃物が光る。ジタンは瞬時に振り向いた。
「ダ―――っ!」
 男たちに取り囲まれている姿が目に入る。
「……ジタンっ」
 ガーネットの声はほんの囁き声にしか響かない。喉元にはナイフが突きつけられていた。
「ダガーを離せ」
 ジタンが声を絞り出すと、ロブは再び、ふ、と笑った。
「お前、そんな言葉一つで俺がこのお嬢さんを離すとでも思ってるのか? 無駄なことはよせ」
 その言に、ジタンはギリ、と右手を握り締める。
 ――あいつは、オレの戦い方を知っている。
「ニー、そいつを縛り上げろ。どうせもうすぐ終わることだ、その間の時間が稼げればいい」
 リーダー格の男がそう命じ、ニーと呼ばれた男が寄ってきた。
「わかっているとは思うが動くなよ。自分のせいで女が死ぬのは見たくないだろう」
「ジタン――−っ」
 ガーネットがもがきかけて、ロブが力づくで押さえる。
「動いたら刺さるぜ、ダガーさんよ」
 ジタンが焦れているのをわかっているロブは、殊更ナイフをギラギラと光らせて、ガーネットの喉元に押し付けた。
「ダガーっ!!」
 ロープを握った男が近づいてくる。逃れなくてはならないが、動けばガーネットが危ない。
 エーコはあとどれくらいで追いつくだろうか?
 サラマンダー、クイナは? スタイナーは?
 ジタンが成す術なく唇を噛み締めた時、ごく近くまで来ていた男が、小さく目配せした。
 ロブやリーダーの男には完全に背を向けている。
 ジタンは一瞬戸惑ったが、すぐに表情を戻した。
 ロープがかけられるのを大人しく受け入れる。縛り方を背中で探る。
 盗賊の彼には、その縛り方がどういうものか、すぐにわかった。
 見た目にはしっかり縛っているように見えて、その実簡単なコツですぐに解ける方法。
 しかし、それは素人にはわからない方法だった。
 それは、ニーと呼ばれた男が、縛っている相手は盗賊だとわかっていてやっているのだと、ジタンにそう知らせていた。
 つまりは―――


 ニーがロープを引っ張ってジタンを側へ連れて行く。
 ガーネットはずっと暴れ続けていたが、今はじっとしている。
 縛っている間、敵方の気を逸らしていたのだと、ジタンにはわかった。


 合図なんて必要ない。
 オレのタイミングを、彼女はよく知っている。


 ロープがロブの手に渡った瞬間、ジタンは身を翻してロープを解く。
 同時に、ニーが剣を抜いてロブに斬りかかる。
 ガーネットは自分を捕らえている腕をすり抜けて、ジタンの胸へ飛び込んだ。


 その時間、僅か一秒。
 ジタンはガーネットを腕の中に取り戻した。







BACK   NEXT   Novels   TOP