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「オレたちは正面から行く。プルート隊は後ろを突いてくれ」
「わかったのである」
「ダガーは奥の……」
と、ジタンは簡単に書いた倉庫の設計図を指差した。
「この部屋にいる。サラマンダーとクイナに引き付けてもらってる間に、オレとエーコで突っ込む」
「了解」
「ダガーに先に知らせられると良かったんだけど……」
エーコが困ったように呟いた。
「たぶん、そろそろ来る頃だってことはわかってるはずだ」
ジタンが言うと、隣でクイナが頷いた。
「ダガーなら、ジタンの行動パターンはお見通しアルな」
いろいろと突っ込みたい言い草だったが、事態が事態なのでジタンは飲み込んだ。
「それじゃ、5分後に一斉突入だ」
プルート隊が裏へ回る間、ジタンたちは正面入り口前で待機した。
「ジタン」
不意に、サラマンダーが口を開いた。
「無茶はするな」
「……そんなことわかってるよ」
「お前が無茶をすれば向こうが危ない。冷静に判断しろ」
「……わかってるっての!」
サラマンダーは空に向かって溜め息を吐く。エーコがその足をつんつんと指で突っついた。
「エーコに任せてよ」
それがまた危ないのだと、サラマンダーは口には出さねど態度で示した。
「そろそろだな」
「いつでもOKよ!」
エーコが笛を振り回して右手を振り上げた。
「クイナ、サラマンダー、頼んだ」
「了解アル」
ガシャン、と正面の入り口が開く。ほぼ同時に裏の方でも音がして、何人かが怒号を上げたのが聞こえた。
「突入!」
わあああぁぁ、と声が上がり、まずサラマンダーが雑魚を蹴散らす。クイナが青魔法で第二波を食い止めた。
「行け!」
サラマンダーが顎で指し示した先、ガーネットが捕らえられている方向に扉があった。
ジタンはエーコを連れて扉を潜る。その先に、刺客が三人待っていた。
「ちっ」
「エーコに任せて!」
笛をくるくると回して構えると、エーコは詠唱して召喚獣を召喚した。
「マディーン!」
あたりがキラキラと発光すると、敵方は明らかに虚を突かれてうろたえた。
「ジタン、先に行って! ダガーを守って!」
エーコが叫ぶ。
ジタンは一瞬惑ったが、思ったより敵の人数が多く、ガーネットが危険だと判断した。
「エーコ、頼んだ!」
「りょーかい!」
相手が怯んでいるうちに、次の詠唱を始めているのが見えた。ジタンは、ガーネットのいる部屋へ飛び込んだ。
「そこまでだ」
その瞬間だった。
「それ以上近づかないほうがいい、ジタン」
名を呼ばれ、一瞬竦む。姿は見えないが、声に聞き覚えがあった。
「……なんであんたがここにいる、ロブ」
ロブ。ジタンの班にいる傭兵の一人だった。愛想のいい方ではなかったが、考え方がしっかりしていて、皆の信頼も厚かった。
ふ、と笑う声が響き、ギラリと刃物が光る。ジタンは瞬時に振り向いた。
「ダ―――っ!」
男たちに取り囲まれている姿が目に入る。
「……ジタンっ」
ガーネットの声はほんの囁き声にしか響かない。喉元にはナイフが突きつけられていた。
「ダガーを離せ」
ジタンが声を絞り出すと、ロブは再び、ふ、と笑った。
「お前、そんな言葉一つで俺がこのお嬢さんを離すとでも思ってるのか? 無駄なことはよせ」
その言に、ジタンはギリ、と右手を握り締める。
――あいつは、オレの戦い方を知っている。
「ニー、そいつを縛り上げろ。どうせもうすぐ終わることだ、その間の時間が稼げればいい」
リーダー格の男がそう命じ、ニーと呼ばれた男が寄ってきた。
「わかっているとは思うが動くなよ。自分のせいで女が死ぬのは見たくないだろう」
「ジタン――−っ」
ガーネットがもがきかけて、ロブが力づくで押さえる。
「動いたら刺さるぜ、ダガーさんよ」
ジタンが焦れているのをわかっているロブは、殊更ナイフをギラギラと光らせて、ガーネットの喉元に押し付けた。
「ダガーっ!!」
ロープを握った男が近づいてくる。逃れなくてはならないが、動けばガーネットが危ない。
エーコはあとどれくらいで追いつくだろうか?
サラマンダー、クイナは? スタイナーは?
ジタンが成す術なく唇を噛み締めた時、ごく近くまで来ていた男が、小さく目配せした。
ロブやリーダーの男には完全に背を向けている。
ジタンは一瞬戸惑ったが、すぐに表情を戻した。
ロープがかけられるのを大人しく受け入れる。縛り方を背中で探る。
盗賊の彼には、その縛り方がどういうものか、すぐにわかった。
見た目にはしっかり縛っているように見えて、その実簡単なコツですぐに解ける方法。
しかし、それは素人にはわからない方法だった。
それは、ニーと呼ばれた男が、縛っている相手は盗賊だとわかっていてやっているのだと、ジタンにそう知らせていた。
つまりは―――
ニーがロープを引っ張ってジタンを側へ連れて行く。
ガーネットはずっと暴れ続けていたが、今はじっとしている。
縛っている間、敵方の気を逸らしていたのだと、ジタンにはわかった。
合図なんて必要ない。
オレのタイミングを、彼女はよく知っている。
ロープがロブの手に渡った瞬間、ジタンは身を翻してロープを解く。
同時に、ニーが剣を抜いてロブに斬りかかる。
ガーネットは自分を捕らえている腕をすり抜けて、ジタンの胸へ飛び込んだ。
その時間、僅か一秒。
ジタンはガーネットを腕の中に取り戻した。
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