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『ブランク、どんな調子だ!?』
 再び無線からジタンの声が響くのに、ものの5分とかからなかった。
「うるせぇ、ちょっと黙ってろ」
『逃げた方がいいんじゃねぇのか?』
 その通りだった。残り25分強。いくらブランクの手先が器用で、「こういうもの」にわりと精通していたとしても、不可能なものは不可能なのだ。
「いいから黙れ。お前の声はいちいち勘に障んだよ」
『げ、この期に及んで憎まれ口かよ!』
「……ジタン、いい加減にせよ。遊んでいるわけではないのだぞ」
 わ、分かってるよ! とジタンが声を上げた。
「何か手伝うことはないのか?」
 フライヤはブランクの後ろ頭に声を掛けた。
「ここまできたら何もない」
 素っ気ない声がそう答えた。
「気が散るから出てってくれ」
「……おぬしは」
 噂通りの人間じゃな、とフライヤは呟いた。
 無線機の向こうでは、何人かがぼそぼそと話し合う声が続いていた。ジタンも受話器から離れているらしい。
 絡まったコードと格闘していたブランクがふと顔を上げるまで、長い沈黙が続いていた。
「何だ、今の声」
「声……か?」
 フライヤは辺りを見回した。
「子供が泣いてる」
 外を見ると、確かに通りの向こうで子供がぽつんと突っ立ったまま泣いていた。
「フライヤ」
 ブランクは手を動かしたまま、迷いもなくこう言った。
「迷子だろ。安全な場所まであんたが連れてってくれ」
「しかし」
「子供が一緒ならあんただって逃げなきゃ仕方ないだろ。運が良かったな」
「な……っ!」
 フライヤは小さく息を吐いた。
「……おぬしは、この国と心中するつもりか」
 ブランクはふん、と鼻を鳴らした。
「あんたと同じで、俺も俺なりにこの国を守ってんだよ」
「大した愛国心じゃな」
 泣き声が少し遠ざかる。
 ブランクは「早く行け」と手を振った。



***



「ちょ、どういうこっちゃ!?」
 飛空艇の臨時発着所で喚いているのは、今しがたアレクサンドリアからたどり着いたばかりのルビィだった。
「とにかくリンドブルムの街は全区画立ち入り禁止です」
 見張りの兵士がそう説明した。
「せやから何で!」
「危険だからです」
「せやから何が危険なの!」
「もう時間がないんですよ! できるだけ遠くまで離れて」
 時間がなくて離れろって、どういうこと?
 人に流されて、リンドブルムの街が一望できる高台まで連れてこられて、初めてルビィは「爆弾が仕掛けられたらしい」ということを知った。
 あの平和でのほほんとしたリンドブルムで……信じられへん。
 タンタラスのみんなはどこにいるのかと、ルビィは心配になってあたりを見回した。それで目的の人間を見つけられるほど、その場は整然とはしていなかった、が。


 しばらくして、街から避難する人の流れも収まった頃。
 不意に人影が街から大股で……というか空を飛んで現れた。
 街を凝視していた人々は、突然現れたその人物に驚きの声を上げた。
 子供を抱いていた。
「この子の両親を知っておる者はないか?」
「建具屋の倅ですよ」
 側のおばあさんがそう告げた。
「さっきどこかで奥さんを見かけましたよ。この子を探し回って」
「連れて行ってやってくれ」
 フライヤは子供の頭をぽんぽんと軽く叩き、その子を引き渡した。
「あの!」
 走り寄ってきたルビィに、フライヤは目を遣った。
「おぬし、リンドブルムにおったのか」
「あの、タンタラスの連中、見かけへんかったですか?」
 フライヤは口を噤んだ。気を取り直して、もう一度開く。
「一人、まだ街に残っておる」
「……え?」
 かちり、と懐中時計の蓋を開ける。
「あと5分もない……戻れぬか」
「ホンマに、危ないモンが仕掛けられて……?」
「そうじゃ。おぬしの仲間が一人、それを止めようとしておる」
 一人。と言ったら。
「もしかして」
 フライヤが言葉もなく頷いて見せた。
「ブランク――!」







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