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「ブランク、もう無理だって! いい加減お前も安全な場所に避難しろよ」
 と、無線機に貼り付いてジタンが叫んだ。
 返事はない。無線機からは黙々とペンチがコードを切る音だけが響いていた。
「あと5分もないんでしょ!? 目処は立ってるわけ?」
 エーコが後ろから合いの手を入れる。
『逃げ遅れた奴がまだいるかもしれない。放っておけってのか?』
 ぱちん、ぱちんと音を立てながらブランクはそう言った。
「だからってお前が犠牲になるいわれもないだろうが!」
 そうよそうよとエーコ。
 ブランクは鼻を鳴らしただけで、相変わらずそこに留まっていた。
『おい、ジタン』
 しばらくして、ぱちん、とコードを切る音が響き、ブランクが徐に口を開いた。
「何だよ!」
『ちょっと知恵貸せ』
「は? 知恵?」
『今から配電を言うから、次どこ切ればいいか考えろ』
「あ? ええっと、ちょっと待て」
 ジタンが近くの金属棒を引っつかんで、土の上に図面を描き出した。
『どこかで見たことある奴だ。配電盤が底についてて……』
「ねぇ、そんなことしてどうするの?」
 エーコが尋ねたが、二人は爆弾の仕掛けについて短い時間で申し送りをする。
「上から三番目だろ。そうじゃないと逆流する」
『……やっぱそうか』
「ああ」
 ぱちん、と音が響いて、ブランクが先に進んだのがわかった。
「それで、二番目は残して左側の緑を一本と、」
『下の白か』
「うん」
 ジタンは相変わらず土に図面を描きながら相槌を打っている。
「……なんで話が通じてるのかわからないけど、すごいわね」
 とエーコが言うと、ガーネットも頷いた。


 そんなやり取りがしばらく続き、
『で、赤と青、どっちだ』
 ブランクがそう問うた。
「どっちかが正解でどっちかがダミーだな……」
 ジタンが棒で土を掘りながら呟いた。
「どうしたの?」
「最後の一本まで来たんだけど、それが一番重要なんだ。間違ったらヤバいことになる」
「赤か、青……」
 エーコが復唱する。
「そう、どっちかが正解で、どっちかは間違いなんだ」
「両方切ったらいけないの?」
 ガーネットが尋ねたが、
「ダミーを切ったら時計が止まらなくなる仕組みなんだ。そのまま爆発することになる」
 と、ジタンが説明した。
『作った奴ならどっちがどっちか知ってるはずなんだが』
「あ、スタイナーが連れて……!」
 ガーネットが悲鳴を上げた。
 それを聞くな否や、サラマンダーが無言のまま飛び出していった。


 しかし、いくらサラマンダーでも数分で城から街まで戻るのは難しかった。
 それに、相手に正解を吐かせるとなれば、さらに時間が必要だろう。


「まだかよサラマンダー!!!」
 ジタンがイライラとテーブルを指で叩く。
『もう1分切るぞ』
 ブランクがそう告げると、その場の全員が悲鳴を上げた。
「ブランク……!」
『ジタン、お前が選べ』
「……は!?」
『赤か青だ。二択だぞ。簡単だろ』
「ば、ばか言えお前!!!!」
『もう時間がない。たぶん間に合わない』
 ジタンが喉の奥で、うげ、と声を上げた。
『俺の命、お前に預けてやる』
「ま!!! おま、ちょっと待てそれ――」
『赤か青だ。どっちか選べ』
 ジタンが、赤、青と交互に呟く。
「そんなの決められるかよ馬鹿野郎――!!」
 金髪頭を掻き毟った。
『さっさと選べって、もう40秒切る――』
「赤!」
 ジタンが勢いで叫んだ。
「あ、待った。やっぱ青!」
『どっちだよ』
「青! 間違いない」
『……よし』
 かちり、とペンチの刃先が開く音が殊更大きく響いた気がした。


『残り1秒になるまで待って、コードを切る。あと30秒だ』



***



「残り30秒か……」
 フライヤが懐中時計を凝視しながら呟いた。
 横では、ルビィが青い顔をしたまま街を見つめていた。
 いまや街の人たちもみな、運命の行方に固唾を呑んでいた。
「いっつもそうや。いっつもブランクはそんな役回りばっかり」
 ルビィの小さな声に、フライヤは彼女を見遣った。
「いっつもアホ見てばっかり。どうして――どうしてそうなん、あんたは?」
 ぽろ、と涙が零れて、草むらに落ちた。
 誰も、それに答える術を持たなかった。


『25秒、3、2、1、20秒』
「ブランク、今からでも逃げられないのかよ?」
『そんなことできると思うか、お前』
「……無理、だよな」
 ジタンが肩を落とす。無線機の前で、声は聞こえるのに何もできない自分が悔しかった。
『ジタン』
「何だよ」
『もしかしたら、最後になるかもしれないから言っておくが』
 ブランクの前置きに、ジタンははっとして両拳を握り締めた。
『今まで散々迷惑かけらたまま死ぬのは惜しいけど』
「……っ」
『お蔭で、楽しかったぜ』




「5秒、4、3、2……」




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