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 1827年、夏。
 アレクサンドリア王国は、忘れられた大陸での協同戦線へ、今年も兵を出すことに決した。
 そして、出征する兵たちの中には小麦色の髪の少年が混じっていた。
 ダイアン・フェイル・アレクサンドロス。アレクサンドリア女王ガーネット17世の長男だ。
 城のテラスから、母は一人息子の背中を見送った。
 泣きも喚きもせず、たたじっと。
 これが今生の別れになるかもしれないという不安を胸に抱いて、彼女は、その背中が遠く遥かな大地に消えていくまでずっと見送った。



 もしあの子に何かあったら―――



 引き裂かれるような痛みを覚え、ガーネットは小さく震えた。



***



 しかし、三月後には、彼女の息子は再び元気な姿でアレクサンドリアの地へ舞い戻った。
 ただ―――全く変わりなく、とは言えなかった。
 優しい陽だまりのようだったはしばみ色の瞳は、厳しい冬の大地のように凍っていた。
 少し背が伸びた。
 そして、心配するほどにいつまでも抜けきらなかった少年らしさは、この三ヶ月で完全に脱ぎ捨てられていた。



 ガーネットは尋ねなかった。
 向こうの様子はどう?
 怪我はなかった?
 辛くはなかった?
 ―――ただそっと、頭を抱き寄せて「お帰り」と。
 そして、二粒だけ涙をこぼした。
 この子は、いつの間にこんなに……



***



「いつの間に、あなたに似てきたのかしら」
 ガーネットがぽつりと呟き、ジタンは顔を上げた。
 思わず、いつもの調子で
「サフィーなら前から……」
 と言いかけ、彼はすぐにやめた。
「ダイ、か?」
「ええ」
「似てるか?」
「ええ……とても」
 全てを背負うあの目が、とても。
 あなたに似すぎていて、泣きたいくらい。
「怖いわ」
 ガーネットが自分の肩を抱くように屈みこみ、ジタンは立ち上がって彼女の側へ歩み寄った。
「大丈夫さ」
 ガーネットは頭を振った。
 ―――あの子を失うのが、怖い。
 それは、言葉にできぬ、否、言葉にしてはならない思いだった。









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