Happiest Baby
フライヤが小さくクスリと笑ったので、サラマンダーはふいと顔を上げた。
最近の彼女は、よくそんな風に笑う。
どこか皮肉っぽく、どこか冷めたように笑う女だったフライヤに、そんな微笑を贈ったのは紛れもなくサラマンダー本人だった。
だからこそ、そんな風に笑うフライヤを見るのは、どこか眩しい。
「なんだ」
呟くように問うと、フライヤは唇の両端を持ち上げたまま振り向いた。
「動いておるのじゃ」
膨らんだ腹を左手で優しく撫でながら、フライヤはそう答えた。
足で蹴っていると言われて、サラマンダーも触ってみた。小さく盛り上がったそこに、命の存在をまざまざと感じる。
この、もうすぐ生まれ来る小さな赤ん坊に。
一体、どんな喜びが訪れるだろう。
どんな出会いが待ち受けているだろう。
どんな道が用意されているのだろう。
不思議だと思う。この子は自分の血を受け継いでいるのに、こうして足で蹴り上げているのは全く別の存在なのだ。
「不思議なものじゃな」
フライヤもそう呟いた。
「人が生まれるというのは、不思議なものじゃ」
「そうだな」
サラマンダーが同意すると、フライヤは嬉しそうに見上げた。
「赤毛かのう」
「どうだか。お前に似れば違うだろ」
「目の色はおぬしに似たほうがよい」
「そうか?」
フライヤはふふ、と笑った。
「きっと、世界一の幸せな子じゃ」
悪戯っぽい目がサラマンダーを覗き込む。その目を見つめ返しながら、サラマンダーは一言答えた。
「だろうな」
フライヤがもう一度、さっきと同じように笑った。
-Fin-
|