<2> 夕焼けの柔らかい光の中、手を繋ぎ、楽しそうに笑い合う恋人たち。 寄り添って座ったり、乗り物に乗ったり、みな楽しそうだ。 ルビィはため息をついた。 考えてみれば、こんな普通のデート、したことがない。 今更手を繋いで歩いたりするのも、何だか照れくさくて。 普通の恋なら通ったはずの道を、自分たちはすっ飛ばして結婚してしまった。 思い残すことがあるとしたら…… 「ルビィ」 疲れたような声で呼ばれ、ルビィは振り向いた。 「お前なぁ……」 ブランクは、ルビィの隣にドッカリと腰を下ろし、ため息をつく。 ルビィは思わずくるりと背を向けて、そっぽを向いた。 褐色の双眸が自分を見つめるのを、背中越しに感じる。 が、やがて、小さなため息と共に目線は逸らされた。 彼は何も言わなかった―――言って欲しいことも、言って欲しくないことも。 彼らは、物も言わずに座っていた。 どれくらい経っただろう。 「ママーっ!」 涙声が母親を呼び、二人は、思わずそちらを振り向いた。 三歳くらいの女の子が母親に抱きすくめられる。 「ダメじゃない、一人で走って行ったら」 父親が向こうから駆け寄って、「よかった」と安堵の表情を浮かべ。 ―――どこにでもある、家族の何気ない風景。 「エミーって、あれくらいか?」 突然、ブランクが口を利いた。 「はぁ?」 目を見開いて振り向くルビィ。 「あんなぁ、ブランク。子供がそうすぐに大きくなるわけないやろ? エミーは四ヶ月やから、まだ首も座ったばっかりやで」 「……そっか」 ブランクは不機嫌そうな顔で、足元に目を落とした。 ―――親の愛情に、抱かれたことのない人。 ルビィは遠くの方で風船を配るピエロを、見るともなく眺めた。 ―――だから、父親になるまでに時間が必要なの。わかってあげることが、わたしたちの仕事だわ。 彼女は、そう言った。 義妹のような、あの子は。 必要以上に心配するのも、怒りっぽいのも、急に優しくなるのも。 不安、だから。 彼の気持ちをわかってあげられない自分は、なんて心が狭いのだろう。 「俺……」 「あんたは」 言いかけた言葉を遮って、ルビィはブランクに向き直った。 意思の強いブルーグレーの目が、じっと覗き込んでくる。 「あんたは、うちが見込んだ男や。もっと自信持って生きてくれな、困るで」 ブランクはほんの少し、目を見開いた。 「あんたなら、ええ父親になれる」 ルビィは真剣な目でそう伝えた。 ブランクも、その目をじっと見つめる―――。 やがて、褐色の瞳は微笑った。 「お前に太鼓判押されてもな」 「んなっ! 失礼な!」 人が励ましたってるのに……とぶつぶつ文句を言うルビィを、ブランクは優しく抱きしめた。 「どこへも行くなよ、一人で」 そっと囁かれた言葉を、想いを、ルビィは心の奥底、この世でたった一人だけに踏み込むことを許したその場所へ、大切に仕舞っておいた。 「こんなんのどこが面白いんだ?」 「ええ眺めやない。リンドブルム中が見渡せるで?」 まぁな、と、ブランクは気のない返事をした。 ルビィがどうしても乗りたいとせがんだのは、絶叫ジェットコースターではなく、観覧車だった。 夕闇の中に浮かび上がる、リンドブルムの街。 小さな明かりが灯り始めた家々から、子供たちの笑い声が聞こえてきそうだ。 ルビィは立ち上がると、ブランクの座っている方へ移った。 観覧車はぐらりと揺れる。 「お前な〜」 危ないだろ、と、彼女の腕を掴んで座らせるブランク。 「平気や、これっくらい」 「そう言ったって、バランス悪ぃだろ。こんな片側に……四人も座ったら」 「四人……?」 ルビィは自分の大きなお腹に手を当てた。 「ブランク!」 途端に、ぎゅうっとばかりに抱きついてくるルビィ。 「なんだよ、危ねぇって!」 「いつからそんなロマンチックなこと言うようになったん、あんたは!」 「……俺は事実を言っただけだぞ」 「うちは嬉しいっ!」 嬉しいを連発する身重の妻と、彼女をどう宥めたものかと思案する夫。 二人を乗せた観覧車だけは、風に関係なくゆらゆらと揺れていた。 -Fin- 久しぶりのブラルビでございましたv もうすぐパパ・ママになるお二人です。 しっかし、ブランクよ・・・いくらなんでも赤ん坊と3歳は間違えないだろ(−−;) でもですね、私なんかは周りにちっちゃい子がいないので、1歳と2歳を見分けるのも結構怪しげです(爆) やっぱり、兄キだったら、子供なんかに全然興味がなかったりするかなぁと。 そう思っているうちに、気付いたらアホなことを言ってました(汗) とは言え! そんなブランクも間もなく双子のパパですからねぇ( ̄ー ̄)ニヤリ 嫌と言うほど、子供に手を焼かされる日々がもうすぐ始まりますv(笑) 当サイトの1周年記念のアンケートで、皆さんがブラルビをお好きと知ってから、 もっとコンテンツ増やしたい! と思っていたので、何とか形に出来てよかったです。 もっとはっちゃけの二人を書きたかったのですが、気付いたら、 私の設定上、この二人ってほとんど二人っきりの時間がないんですよね〜(汗) それもこれもみんな、兄キのせいだわ・・・ブツブツ(何でやねん:笑) あ、またまたルビィはヘボい関西弁使ってますが、どうぞご容赦下さいm(_ _;)m 2003.12.14
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