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 程なくして、タンタラスに最初の産声が上がった。
 その子を取り上げたマリアが、楽しそうに笑った。
「おやまぁ、えらい別嬪さんだこと」
 ほら、と枕元に連れられてきた我が子はどちらかというと猿のような感じだったので、美人には程遠い気がしたが、髪の色は母親に似たらしかった。
「色白な子だね」
「え、どこが?」
 ルビィは目を丸くした。赤ん坊は文字通り赤い顔をしていて、どう見ても色が白いようには見えなかった。
「あたしはね、今まで100人以上の赤ちゃんを取り上げてきたんだよ。見ればわかるの」
 そして、マリアはブランクに「抱いてみるか」と尋ねたが、冗談じゃなく怖いので、それは断っておいた。
「それじゃ、下に連れてくけどいいかい?」
 ルビィはそっと撫でていた娘の頭から手を離し、頷いた。
「あと半分だよ、頑張ろうね」
 少し眠っておくといい、と、彼女は付け加えた。


 ルシェラは忙しそうに部屋を出たり入ったりしていたので、ルビィが眠ってしまうと、ブランクはすることがなくなった。
 窓の外を眺めてみたが、部屋からは月が見えないので、正確な時間はわからなかった。それでも、随分長い時間が経った気がした。
 握り締められ続けていた右手が、少し痛んだ。
 でも、それはほんのちょっとした痛みで、そんな痛みだけでは、ルビィがどれだけ辛いのか、ブランクには推し量ることは出来なかった。
 まだ、半分なのだ。

 どうして一気に二人も産まなけりゃならないんだか。

 ブランクは胸の内でそう思った。
 双子だとわかったとき、思わず「俺が悪かったのか」と聞いて、マリアに大笑いされたのを思い出す。
 「双子だから」と、いろいろな危険が伴うことを聞かされたときの、不安。
 右手がズキズキと痛んだ。
 こんなに手を繋いだのは、初めてかもしれない。
「……今度は左手にするか」
 ブランクは小さく呟いた。



***



 最初の子が生まれてからしばらく後、ルビィは再び産気付いていた。
 二人目だというのに最初の子よりも時間がかかっている気がして、ブランクは最初の子よりもハラハラした。
 マリアは、自分でも言うように「100人の赤ん坊を取り上げた」ほどに経験豊富なお産婆だった。だから、大方のことは彼女に任せておけば間違いないはずだった。
 それでも、いつになく焦りの表情を見せているマリアに、ブランクは不安を募らせていた。
 マリアが焦っているところなど、子供の頃から今までで、何度かしか見たことがない。
 トレジャーハントに失敗して、仲間が死んだ時。
 ジタンが原因不明の熱を出してばかりいた頃。
 彼女が、このアジトを出て行った日。


 左手にギリギリと爪が食い込んで、ブランクははっと我に返ってルビィを見た。
 尋常でなく、額に汗が滲み出ている。
 ますます怖くなって、ブランクは両手で彼女の手を握り締めた。
 頑張れと、言うことしか出来ない自分。
「あと少し!」
 マリアが力強く声を掛けた。
 しかし、それからまたしばらくの時間がかかった。


 かくして、二人目の子もこの世に生れ落ちた。
 産声の、ないまま。






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