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「ジタン! 来てたの?」
「よ、エーコ」
 いつものように笑ったつもりだったが、そうは見えなかったらしい。エーコはあからさまに訝しげな顔をした。
「どうかしたの?」
「ゆうべ、ルビィが子供を産んだんだ」
「そうなの?」
 エーコは一瞬嬉しそうにしたが、すぐに真剣な表情に戻った。
「良くないの?」
「……ああ」
 ぎゅっと唇を噛んだエーコは、眉根を寄せた。
「エーコ、悪いんだけどシドのおっさんに無線を貸してもらえるか、聞いてくれるか?」
「無線?」
「しばらく、こっちに残りたいんだ」
「ああ、ダガーに?」
 ジタンは頷いた。
 エーコは「ちょっと待ってて!」と言うと、踵を返して大公の間へ急いだ。


「ベアトリクス将軍、リンドブルム城から無線交信の要求が来ていますが、いかがいたしますか?」
 ベアトリクスは、はたと顔を上げた。
 ―――リンドブルムから?
「繋いでください」
 そう言って、受話器を取った。
「こちらアレクサンドリア、ベアトリクス将軍です」
『あ、ベアトリクスか。ちょうど良かった。オレ、ジタンだけど』
「ジタン殿? まだリンドブルムにおられたのですか」
『悪い、いろいろあってな。ダガーはいるか?』
「お部屋におられますが」
『呼んでもらえる?』
「わかりました」
 ガーネットは呼ばれると、息せき切って走ってきた。
「ガーネット様、そのようにお走りになって……」
 と、ベアトリクスが心配するのを押しのけて、無線室へ入った。
「ジタン! ジタンなの?」
『ダガーか? ごめんな、昨日のうちに帰る予定だったのに……』
「何かあったのね?」
 何か良くないことがあったに違いない。それは、夫の声の調子でわかった。
『ルビィがさ、子供を産んだんだよ』
 その一言で、ガーネットは全てを察した。瞬間、まるで自分のことのように胸が痛んだ。
「赤ちゃんは?」
『二人とも無事……一人は、何とか、だけどな』
「ルビィは?」
『……かなり、危ないんだ』
 ガーネットは短く息を飲み込む。元気なルビィの笑顔が脳裏に浮かんだ。
 明るくて、強い彼女。
『ブランクが参っててさ、そんな時に帰るわけにもいかないし……』
「いいのよ、ジタン。傍にいてあげて」
『でも、仕事……』
「仕事ならわたしが出来るわ」
『ダガー』
「非常事態だもの、仕方ないじゃない? あなたは今までよくやってくれたわ。感謝してるの」
『……ごめんな、最後まで出来なくて』
「最後までやったのと同じだわ。後はわたしに任せて、あなたはブランクとルビィと、赤ちゃんたちの傍にいてあげて」
 ありがとう、と、ジタンは小さく呟いた。
『ごめん、あんまり時間がないんだ。エミーのこと、頼むな』
「ええ、心配しないで」
『無理して身体壊すなよ?』
「あなたこそ。ちゃんとご飯食べてね」






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