<4>
隣で眠っていた温もりがするりと去っていって、ルビィは薄っすら覚醒した。
そんな朝が来ることを、ルビィはどこかで恐れていて、またどこかで待ってもいた。
結局、ぐるぐる繰り返された思考は途中でどこかへ押しやられ、流されるままにその朝を迎えてしまったのだ。
一体、どっちなのだろう。
同じ恋なのか、別の恋なのか。
ルビィが目を開けると、カーテン越しに朝日がこれでもかと降り注いでいるのが窺えた。今日も天気がよさそうだ。
ブランクは小さな金属音を立てながら、自分の服を拾い上げていた。
そんなシンプルな動作さえ、以前と何も変わっていなかった。
同じ恋、なのかもしれない。
ルビィはそう思った。ブランクのどこを好きだったのか、はっきり「ここ」とは言えなかったけれど。
結局同じところが今も好きなのだ。何も、変わってはいない。
そう結論付けて、ルビィも起き上がった。
ブランクはちょうど、小さな引き出しの上に置かれた小物たちの中から、紙切れを拾い上げるところだった。
「これ」
ブランクが不意にぼそりと呟いた次の一言に、ルビィは思わず呆然となった。
「チケット、無駄にしちまったな」
「……へ?」
それは、あの舞台のチケットだった。二枚とも手元に残ってしまったまま、小物置きに放ったらかしにしていたのだ。
もちろん、そんなことをブランクが知る由もない……はずだったのに。
「ブ、ブランク……?」
彼はちらりとルビィに目を遣って、それから―――何とも形容しがたいような表情をした。
そう、記憶をなくす前と後で決定的に相違したのは、もしかしたらこの顔かもしれない。
気まずいような、照れくさいような、そんな、どうしようもない感情。
ブランクがルビィにしか向けない顔だった。
「もしかして……?」
腰が抜けて、立ち上がれないままルビィは小さく呟いた。
「……ああ」
「ホンマに?」
ブランクは返事をしなかった。
それで、ルビィは確信したのだった。
ブランクの曖昧さを、拾い上げるのはお得意だった。
「なんで!?」
「知るかよ」
「ホンマに全部思い出したん?」
ブランクはつい、とルビィを見た。
「何を思い出したか、全部話してやろうか?」
前と同じ、まるで揶揄うような声色。
「う……要らん」
また、ロクでもない執念ネタに違いない。これだから細かい男は嫌いだ。
「忘れててくれた方が良かったわ」
ルビィは嘯いた。可愛くないことを言う自分まで、あっという間に元通りだ。
小さく息を吐いて、込み上げてきたものを喉の外へ逃がす。
―――どうせバレるのだから、そんなことをしてもあまり意味はなかったのだけれど。
ブランクはルビィの目元を親指で拭う真似だけした。
「これ、埋め合わせしないとな」
チケットを元の場所に戻しながら、彼はそう呟いた。
「何してくれるん?」
悪戯っぽく見上げたルビィに、ブランクは数秒考えてこう答えた。
「俺のキャパ内でよろしく」
-Fin-
改行に投下しようと思っていた作品@お蔵入りでした〜。
あまりに微妙な出来だったので、結局自分ちに上げてみました(^^;)
記憶喪失ネタは好きだけど、BRでやるのはどうなのかって言う(苦笑)
でも書いている時は結構楽しかったです(笑) らしくなくて面白い(笑)
これでブラルビは死にかけ・記憶喪失の二大メロドラマネタを完遂しました…よ。すごい。
うちのBRは何でもアリ過ぎるな(苦笑)
2007.9.12
BACK Novels TOP
|