おじいさんが死んだ。
 ずっと育ててくれたおじいさんが、死んじゃった。
 あたしは一人ぼっちになって、これからどうやって生きていくのかなんて考えたりして。
 そんな答え、見つかる訳ない。
 自分をコドモだとは思わないけど、やっぱりオトナなわけないし。
 あたしは一人ぼっちだ。
 あたしは、これからずっとこの村で、たった一人で生きていくのだわ。
 ―――たった、一人で。




The village made of red bricks




 あたしが生まれてすぐ、お母さんは死んだ。
 元々体を壊していて、弱ったところにお産なんてしたから。
 お母さんはあたしのせいで死んじゃったのかも知れないと思う。
 あたしが一歳になる前に、お父さんも死んじゃった。
 十年くらい前、村を襲った嵐の夜、この村の人たちはほとんどが死んだ。
 生き残った人も体がだんだん弱っていく病気にかかって、年寄りの人から順番に死んでいったって、おじいさんは言ってた。
 おじいさんは、運良くその病気から逃れることができた、とも。
 お父さんもお母さんも、そのせいで死んじゃったって聞かされて。
 あたしは、その晩怖くて眠れなかった。



 おじいさんはもっと長生きしてあたしを守ってやりたい、って言ってたけど。
 結局あたしを置いて行ってしまった。
 おじいさんはあたしをたくさん可愛がってくれたけど、こんな風に置いて行かれるなら優しくして欲しくなかった気もする。
 あたしはアマノジャクだ。
 あたしは誰かに愛されたい、傍にいて欲しいと思うのに。
 別れなければならない時が来るくらいなら、出会わない方がいいとも思う。
 あたしは一人ぼっちでも生きていける。
 別に、誰とも出会わなくても寂しくなんてない。
 ……ツヨガリかな。



***



「エーコ嬢、またコンデヤ・パタへ?」
「だって食べる物がないじゃない、仕方ないのだわ」
「それはそうですが……マダイン・サリだって川から魚が捕れますよ」
「人間は魚だけじゃ生きていけないの!」
「畑を耕せばげんこつ芋くらい獲れるんじゃ……」
「誰が耕すの?」
 モリスンは黙り込んだ。
 最近めっきり口が立つようになった彼女。
 マダイン・サリ最後の大人がこの世を去るとき、彼は自分にこの小さな少女を託していった。
 モーグリ族である自分が、どれだけ人間の少女を支えられるのか。不安だらけの日常は少女の寂しさばかり引き出しているようで胸が痛んだ。
 結局、何もできないなら。
 最初からいない方がましだと思うくらいに。
「わかりました、エーコ嬢。それなら我々が行ってきますクポ」
「あら、ダメよ。みんなあたしより足が遅いじゃない。これは、エーコとモグのお仕事だわ」
「しかし、エーコ嬢……」
「もう、モリスンは固いこと言い過ぎなの! エーコたちに任しておいたらいいのだわ。ね、モグ」
「クポ〜!」
「もう、あんたは返事だけ一丁前なんだから」
「クポ〜ぉ」
「とにかく、エーコから離れたらダメだからね!」
「クポっ!」
 仲のいい二人……もとい、一人と一匹を見つめながら、モリスンは小さく溜め息をついた。
 この子は知らない。
 いつか別れが訪れるという、この世の定めを。
 そう、この子は別れの痛みだけを知っている。
 果たして、彼女は彼女の運命を受け止めることが出来るだろうか?
 その時まで、自分は側にいることが出来るだろうか?
「じゃ、出掛けてくるわね!」
 背中の羽根をひらひらさせながら振り向くと、エーコは大袈裟に手を振って見せた。
「またぼ〜っと考えごとしてるの? ホントに、モリスンは変わったモーグリね」
「ああ、すみません……」
「うんん、別にいいけど。エーコがいない間、お留守番よろしくね」
「わかりました」
 遠ざかってゆく小さな背中に、一抹の不安を覚える。
 彼女を、どうしたらいいのだろう……いつまでもこのままでいい訳がない。
 あと、十年。
 彼女が自分の人生を決めるその日まで、自分に出来ることを全うしなければならない。
 モーグリにとっての十年はそれほど長い時間でもないはずなのに、モリスンにはあまりに長い時間に感じられた。



 しかし、少女が自分の人生を決し、この村を去るのに時間はかからなかった。
 次に彼女がこの村へ帰ってきたときには、彼女はもう一人ではなかったから。
 「仲間」という言葉を、彼女は知った。
 例えどんなに辛く悲しい別れが襲おうとも、彼女を支えてくれるであろう仲間を見つけたのだ。



 瓦礫ばかりのこの村で唯一光のような存在だった少女は、仲間と共に笑顔で村を発った。
 最後までその姿を見送ったモリスンに、モコが話しかけた。
「いいのか、行かせて」
「きっとこれが、エーコを導く運命の道なんだよ」
 長らく使わなかったモーグリ語で、彼は答えた。
「相変わらず訳のわからないこと言うな、お前は」
 モコは笑うと、召喚壁へ戻った。
 例えこの村の主がいなくなっても、彼は自分の仕事をやめる気など毛頭なかったのだ。



 モリスンは村を振り返った。
 今日は殊更、青い空が赤い煉瓦に映えて見えた。



-Fin-






う〜ん、いまいち暗いお話になってしまいましたが(^^;)
エーコが旅に出る直前から旅に出てしまうまでの、モリスンの思いでした。。。ぉぃ(汗)
モリスンは、モーグリの中でも結構好きなキャラでした・・・(笑)
モコもいい子だよな〜。なんか喋りがカッコイイし(笑)
エコたんはあの年で、親も、親同然の「おじいさん」も失ってしまって、本当に寂しかったと思います。
だから、仲間が沢山出来て嬉しかっただろうなぁと。
別にジタンが好きだからついていっただけじゃないですよね、うん♪(コラ)

エコたんの誕生日に間に合わなくて、とってもごめんなさい(^^;)
エーコも大好きなキャラなので〜(><)
うちのサイト、エコ嬢の出現率低いですけど(汗汗)
・・・あ、でも。3世の方で出てるか(大爆)
2002.5.31




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