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 しかし、彼女の願いはむなしくも空には届かなかった。
 その後幾月かしても、依然として彼の消息は掴めなかった。
 ガーネットは正式にアレクサンドリア女王として即位し、日々、世界が戦争の傷跡を癒すために努力した。
 スタイナーとベアトリクスが側に仕え、彼女を支えてくれていた。
 そんな中、リンドブルムのシド大公と飛空艇技師たちの尽力で、蒸気機関の飛空艇がようやく数を揃えてきた。
 そこで、あの日から半年の後、リンドブルムの捜索隊が、イーファの樹へと派遣された。
 これには、ガーネットの胸の内を考え、また、迎えた養女エーコの強い希望を聞いたシド大公の配慮があったのだった。
 ガーネットは深く感謝した。
 戦争の傷跡深いアレクサンドリアからは、捜索隊を派遣できなかったのだ。


 捜索隊が派遣されたという知らせを聞いた二週間ほど後、リンドブルムから一人の使いが参上した。
 使いの兵士は跪き、大公からの書状をガーネットに示した。
「捜索隊の捜索結果をご報告に上がりました」
 一瞬、ガーネットは息を詰め、身を固くした。
 そして、立ち上がった。
「続けてください」
「は。リンドブルム国の捜索隊五十余名、外側の大陸へ赴き、イーファの樹近辺を捜索いたしました結果、生存者0という結果に至りましたので、ご報告いたします。また、収容可能の遺体はなく、わずかな遺品を押収いたしましたので、ガーネット女王様にお示しいたします」
 使いの兵士は、懐から、白い紙の包みを取り出し、ガーネットに差し出した。
 ベアトリクスが受け取り、ガーネットに渡す。
 その瞬間、ベアトリクスは少し躊躇した。
「ガーネット様、私が確認いたしますか?」
 ガーネットは青い顔のまま、首を横に振った。
 折り畳まれた包みを、開いていく。
 そうだ。
 彼の髪はこんな色をしていた。
 太陽の光を吸い込んだような、透き通った金色……。
 ガーネットの目の前が真っ暗になる。
 それでは、あの人は、あの人は……!
「ガーネット様!」
 ベアトリクスの叫び声が聞こえた瞬間、ガーネットの意識が途絶えた。
 ガーネットは膝から崩れ落ちた。




 ガーネットはイーファの樹の内部にいた。
 襲い来る樹の根をかいくぐり、ジタンは走っていく。
(待って、ジタン!) 
 ガーネットは叫ぼうとして、でも、声が出ない。
 敏捷な動きを、彼女は風のように追いかける。
(ジタン、行かないで!)
 手を伸ばして、必死に捕まえようとして、しかし、金色の髪にさえ触れることは出来ない。
 そして。
 一本の鋭く素早いイーファの樹の根が彼に襲いかかり、一面に鮮血が舞った。
(……っ!)
 ガーネットの目の前で、彼の体を幾重にも串刺していく樹の根。
(やめてっ!)
 声が出ない!
 必死に腕を伸ばしても、何も触れない。
 そして、彼の体はサラサラと砂になって、大地へ零れていってしまった。





 小さな悲鳴と共に、ガーネットは跳ね起きた。
 暗闇の中、何も見えない。
 でも、すぐにそこが自分の休み慣れた部屋だと悟った。
 暗い。
 カーテンの隙間から差し込む月の光が、夜半を過ぎたと伝えていた。
 微かに廊下を人が歩く音。
 低い小声で何かを話す様子。
 静まり返った城。
 彼女には懐かしい故郷であり、慣れた感覚だった。
 でも、それとは別に、彼女を酷く苦しめるものがあった。
 胸にのし掛かり、微動だにしない重い苦しみ。
 時に、彼女の身動きさえ許さないような鈍い痛み。
 ガーネットは声もなく、涙を流した。
 彼がいなくなってから、何度こんな風に泣いたことだろう。
 誰にも気付かれぬよう、ただ、声を殺して泣くことだけが、彼女に残された逃げ道であり、同時に、泣けば泣くほど追い込まれていくのだった。
 そして、ガーネットは思い出した。
 あれは、夢ではない。
 彼が死んでしまった証拠……。
 あの人は、ジタンは、死んでしまったのだ!

 途端に、ガーネットの唇から、嗚咽の声が漏れた。
 ガーネットは体を折り、激しく咽び泣いた。
 廊下を見回っていた兵士がその声に気付き、慌てて将軍を呼びに行く。
 ベアトリクスは脱兎のごとく、女王の部屋へ参上した。
 扉を叩くのももどかしく、勢いドアを開け放ち、ベッドへ駆け寄った。
「ガーネット様!」
 彼女はこの世の終わりのように激しく泣いていた。
 その姿には、さしもの将軍も思わず気圧されたほどだった。
「ガーネット様!」
 ベアトリクスはもう一度叫ぶと、非礼を詫びるのも忘れ、ガーネットを抱き寄せた。
「お泣きください、ガーネット様! こうして悲しみを吐き出さねば、お心はその重圧に負けてしまいますわ。我慢など、なさらずとも良いのです!」
 悲鳴に近い声で言うと、ベアトリクスはガーネットの背中に回した腕に力を込めた。
 ガーネットは、声の限りに泣いた。
 そうしても、悲しみが逃げては行ってくれないことを、心のどこかで知りながら。






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