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ビビが死んでしまってから五ヶ月。
ようやく蒸気機関のエンジンを積んだ劇場艇が、アレクサンドリア女王ガーネットの誕生日を祝うため、アレクサンドリアへ赴いた。
ガーネットは、あの戦いに関わった人々……仲間たちはもちろん、今まで出会った人たち……を、城へと招待した。
来なかった人もいた。演劇好きのビビのために特別に贈ったチケットは、彼の墓へ供えられた。
ミコトも来なかった。ミコトはまだ帰らないと、他のジェノムから手紙が来た。
演目は、「君の小鳥になりたい」。タンタラスはあの時のリベンジを図るのだ、と言ってきた。
ガーネットにとって、思い出深い戯曲。
アレクサンドリアの町は、あの日のような美しさを取り戻していた。
皆、女王の働きに拍手喝采をおくった。
でも、肝心の女王の心は、未だあの日に留まっているとも言えた。
少なくとも、その心の大部分は。
玉座に座り、開演の時を待つ。
スタイナーとベアトリクスが、ロイヤルシートに姿を現した。
……そういえば、あの二人はどうなっているのかしら?
一瞬そんなことを思い、ガーネットは目を閉じた。
また、心はあの日に戻る。
今日は強く、あの日に戻りたがる。
あの、冒険の日々。もう二度と戻らない、日々。
愛おしかった。全ての記憶が愛おしくて、思わずガーネットが溜め息をついたとき、バクーが舞台上に現れた。
待ってましたとばかりに、客席から拍手が湧く。
あの日の、ままだ。
ガーネットはそらでも言える台詞たちに、思わず胸を熱くした。
コーネリアの心情は自分のものと似ている。
同じ王女だからわかる心の痛み。
ルビィはいつもの明るい雰囲気を消し去り、たおやかな王女役を熱演している。
「わたくし、あなたがいないと生きてゆけません!」
その時、ガーネットの目は不意に涙で曇った。
生きていけない。
何度思っただろう。そして、これからも何度思うのだろう……!
ガーネットは物思いに沈んだまま、芝居を見ていた。
……そのせいで、大事なものを見損ねていた。
マーカス役の俳優が頭からかぶっているマントの下に、微かに揺れるものを。
劇は中盤。双子の月が見守る中、マーカスの独白まで来た。
船が出てしまう。
太陽が昇りかけている。
恋人は来ない。
マーカスは一人、彼女への思いを切々と語った。
観客は、息を詰めてそのシーンを見つめる。
そして。
「会わせてくれ!」
マーカスはマントに手を掛ける。
突然、今まで彼の顔まで覆っていたそのマントを、大きく投げ捨てた。
「愛しのダガーに!」
一瞬、会場の時間が止まる。
ガーネットは思わず立ち上がった。
テラスから必死に身を乗り出す。
まさか、まさか……?
壇上で、彼は、彼にしかできない仕草でニッと笑った。
まさか……!
ガーネットはくるりと振り向き、ドレスの裾をたくし上げて走った。
しかし、扉の前に二本の腕が伸びる。
スタイナーとベアトリクス。
ガーネットは立ち止まった。
びっくりしてスタイナーを見上げると、彼はにっこり微笑んで、扉を押し開いてくれた。
ベアトリクスを見ると、彼女も扉を押し開き、ガーネットに微笑んでから手を外へと伸ばした。
―――さぁ、どうぞお行きください。
ガーネットは胸が詰まって何も言えず、ただ頷くとまた走り出した。
二年前、彼と出逢った廊下を走り、階段を駆け下り、城の外へ!
人を掻き分け、必死に進んだ。
もしかしたら彼は幻で、急がなければ消えてしまうかも知れない、とでもいうように。
どんっ、とばかりに、人にぶつかる。
その瞬間、チェーンが引っかかって切れ、首から下げていた宝珠のかけらが地面へ転がっていってしまった。
かしんっ、と音がする。
ガーネットは振り向いた。
女王の証である、宝珠。
でも、それでも、わたしは……!
ガーネットは宝珠に背を向け、また走り出す。頭を飾るティアラも脱ぎ捨て、思い切り、その腕の中へ飛び込んだ。
「ジタン!」
彼はガーネットを、腕を伸ばして捕まえると、その顔をのぞき込んだ。
「やぁ」
ジタンは片目をぱちっと瞑ってみせる。
その瞬間、ガーネットの胸に、様々な思いが止めどなく込み上げてきた。
彼がいなくなってからの不安、恐れ、苦悩。寂しさ、悲しみ。
そして、無事帰ってきてくれたのだという安堵や喜び。
ガーネットは拳でジタンの胸を叩いた。
「バカ! ジタンのバカっ! わたしがどれだけ……」
あとは言葉にならない。抱き寄せられ、髪を撫でられると、俄然安堵と喜びの方が大きくなった。
「ごめん」
ジタンはガーネットを抱き締めたまま、小さく言った。
観客たちは大歓声で彼らを見守った。
-Fin-
最後までお読みいただきありがとうございました。
えっと・・・書いた自分で読んでも即刻帰りたくなる一品でございました(−−;)
一応FF9って言ったらED?なノリで書いた愚作で、やっぱり載せるか、な感じでアップです。
最後だけ背景が変わるのはなぜでせう?
ジタンバージョンも最後背景変わるのです♪(あ、そ)
2002.9.12
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