いつか帰るところ(Zidane ver.)



<1>


 ヒルダガルデ3号は、荒れ狂う気流の中、空へと舞い上がっていった。
 暴れのたうつイーファの樹の根で、辺りは土煙が立ちこめている。
 その中を、飛空艇はフラフラと飛んでいった。
 大切な、かけがえのない仲間たちと。
 愛しい人を、乗せて。
 ジタンは空を見上げ、少しだけ微笑んだ。
 ……無事に飛んでくれよ。
 無事に、彼女を彼女の帰るべき場所へ、届けてくれよ。


 そして。
 ジタンはイーファの樹に向き直った。
「クジャ、聞こえるか? 助けに行くから待ってろよ!」






 ―――気が付くと、辺り一面青い光に満ちていた。
 しかも、よく見覚えのある青だ。
 ジタンはまだぐらぐらする頭を抱えて起き上がってみた。
「……ここは?」
 崩れた瓦礫が散乱し、荒れ果てた荒野のようになっている。
 静かで、風も、音もない。
 気付けば、空も雲もない。
「……まさか、テラ?」
 ジタンはゆっくりと立ち上がった。
 辺りを見回しても、瓦礫の他には何もない。
 いや、よく見ると、見覚えのある泉があった。
 彼の生まれ故郷「ブラン・バル」にあった、あの泉だ。
「やっぱり、テラなんだな……」
 そういえば、クジャはどうしたろう?
 ジタンは足を引きずりながら、とりあえず一帯を歩いて回った。
 クジャはそう遠くないところに倒れていたが、既に事切れていた。
 やはり、あの瞬間、彼は息を引き取っていたのだ。
 安らかな顔だった。
 ジタンは、じっと動かないクジャの前で、静かに思いを馳せた。
 「ガイア」という世界を滅ぼすために生まれたクジャ。
 その後継者として生まれた自分。
 ―――でも、ジタンは知っているのだ。
 ガイアの美しさ。そこに住む人々の強くたくましい心。
 たぶん、自分の運命が狂わなければ、自分はこの男と同じように、ガイアを滅ぼす悪魔となっていたのだろう。
 そう思うと、胸がぞっとした。
「結局、助けてやれなかったな。ごめんな、クジャ」
 ジタンは呟くと、側の瓦礫をどかし、穴を掘り始めた。
 テラで生まれた命を、テラに還そうと。


 思えば、自分とてテラで生まれた命。
 還るのは、やはりテラのクリスタルなのか?
 だから、あの瞬間、自分はテラへ移送されてしまったのだろうか。
 確かに、イーファの樹が自分たちに向かって触手を伸ばしていた。
 もうダメだと思ったその瞬間、体中に痛みが走って。
 その後のことはわからない。
 ジタンは空……ガイアならばそこにあるはずの……を見上げた。
 一面の青はガイアのクリスタルの色だ。
 ずっと探していた光。
 でも。
 帰らなければ。帰ると約束したのだから。


 クジャの墓に墓標を立て終わると、ジタンは立ち上がった。
 とりあえず現状を把握するため、行けるところはくまなく歩いてみた。
 テラのクリスタルの力は弱くなっているらしい。
 それでも、出没するモンスターは凶暴だった。
 ……みんなと一緒に戦うなら、ここまで苦戦はしなかったろうな。
 何度目かの戦闘が済んだとき、ジタンは側の岩に腰を下ろし、溜め息をついた。
 助けられていたのだ。
 自分では気付かないところでも、心に傷を負ったあの時も。
 ビビ、スタイナー。フライヤ、クイナ、エーコ、サラマンダー。
 ダガー……。
 会いたい。
 ―――でも。
「どこにもないな。ガイアへの入り口が」


 自分はどこから入り込んできたのか、ガイアへと続く次元の穴がどこにもないのだ。
 ジタンは、様々な思いの詰まった場所を歩いて―――もはや、駆けずり回って―――探しまわった。
 おおかたはクジャが放った力のせいで、見る影もなく瓦礫と化していた。
 それでも、その場所はその場所であり。抵抗しても思い出してしまう。
 あの苦悩が再び彼を苦しめた。
 ガイアを滅ぼす存在。
 自分は一生この場所にいるべきなのでは?
 ガイアへ帰るべきではないのでは……?
 そう思った。
 思いながら、他の部分でジタンはこうも思った。
 ガイアへ「帰る」と思う時点で、もう、自分はテラの人間じゃないのかも知れない。
 ガイアの命のうちの一つなのかも知れない。
 それに、あの星には帰る場所がある。
 会いたい仲間たちがいる。
 そして、心から愛してやまない人も。
 ……離れていればいるほど、想いが募る。
 そう思う度、やはりガイアへ帰りたいという思いが強くなり、ジタンはまた、テラの中を走り回るのだった。
 ない。次元の狭間がない。
 帰りたい。でも、帰るべきではないかも知れない。でも、帰りたい。しかし、道はない。
 ジタンは次第に追い込まれていった。
 更に、もう一つの事実が更に彼を追い込むこととなった。






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