<2>


 テラは、消滅しかけていた。
 日に日に、ガイアにその空間を取り込まれていた。
 行動できる範囲もどんどん少なくなる。
 このままだと、自分もろともガイアに取り込まれてしまうかも知れない。
 ―――死んでしまうかも知れない。
 ジタンは生きたいと思った。
 生きて再び彼女の元へ帰りたいと。
 その思いは、何よりも強くなった。
 日に日に強さを増していったのだ。


 テラにいると、過ぎた時間がわからない。
 一体、今はいつなんだろう。
 あれから、どれだけの時間が流れたんだろうか。
 ジタンは、ガイアのクリスタルの光を見ながら寝ころんでいた。
 ダガー……。
 小さく、呟いてみる。
 ちゃんと無事にアレクサンドリアへ帰れたかな。
 元気で過ごしているだろうか。
 たまにはオレのことを思い出すかな。
 ……帰りたい。
 ますます狭くなるテラの空間の中で、ともすれば諦めてしまいそうになるとき、ジタンはダガーがよく歌っていた歌を口ずさんだ。
 生きたい。
 帰りたい。
 そんな思いを込めて、彼は歌った。
「……ちょっとオンチかな、オレ。やっぱりダガーが歌わないとな、この歌は」
 悪戯っぽく笑いながら独り言を言うと、ジタンは立ち上がった。
 今日こそは、ガイアへの道を見つけるぞ。
 昨日のモンスターとの戦いで痛めた右肩の傷は、まだ塞がってないけど。
 大したことはない。休んでいる暇もないしな。


 実際、ジタンは何度も怪我を負った。
 テラのモンスターは脅威だった。
 そのモンスター相手に一人で戦うのだから、かなり無茶だったのだ。
 でも、ブラン・バルに残っていたアイテムのお陰で、何とかここまでやってこれた。
 この先、いつまでもつだろうか?
 いや、そんなことは考えない、考えない……。
 元パンデモニウムの辺りを探し歩いた。
 瓦礫をどかして中をのぞく。
 上から下から、次元の狭間を探した。
 その時。
 不意に気配を感じた。
 しかも、モンスターじゃない。
 ジタンはきょろきょろと辺りを見回した。
 ……え?
 オレ、夢を見ているのか?
 だって、まさかそんなはずは……。
「ミ……コト……?」
 驚愕した表情を浮かべた「妹」が、そこに立っていた。
 彼女は震えていた。
 ジタンは瓦礫を飛び越え、走り寄った。
「ミコトなのか?」
 呼び掛けたが、しばらく彼女は放心したまま、何も言わなかった。
 そして、不意に目から涙がこぼれ落ちた。
「お、おい」
「……ジタン、生き……てた……の?」
「あ、ああ。たぶん生きてるんだと思うけど」
「ごめん……ごめんなさい!」
 ミコトはその場にうずくまって泣き始めた。
「おいおい、泣くなよ」
「もっと早く来ればよかったのに! どうしよう、私、取り返しのつかないことを……」
 その言葉に、ジタンは一瞬青ざめた。
「ダガーに何かあったのか!?」
 ミコトは泣きはらした目でジタンを見た。
「え?」
 ミコトが心底意外そうな顔をしたので、どうやら思い過ごしだったことをジタンは悟った。
 思わず、安堵の表情を浮かべる。
「ジタン……。ダガーのこと、心配してるの?」
「当たり前だろ? あいつ、元気にしてるか?」
「ええ。でも、あなたがいなくて辛そうだったわ。その、あなた、死んじゃったことになってて……」
 ジタンは一瞬眉をひそめたが、やがて戯けたように肩を竦めた。
「ま、しょうがないよな。だいぶ時間が経ってるし」
「そうよ。もう、一年半も経ってるのよ」
「ふ〜ん、そんなにか……。……! 何だって? 今なんて言った?」
「もう、一年半も経ってるのよ」
「……そのまんま繰り返すなよ。……って、そうじゃなくて、もうそんなに経ったのか?」
「そうよ。……わからなかったのね。テラじゃ、時間なんてあってないようなものだものね」
「そうか、一年半か……。いや、でもさ。出口が見つからないんだよ。それで今まで閉じこめられたまんまだったってわけさ」
 ミコトは辺りをきょろきょろ見回した。
「ここにはないわ。たぶん、クリスタル・ワールドのあたりなら……」
「クリスタル?」
 ミコトはこっくりと頷いた。
「そうよ。あそこからガイアのクリスタル・ワールドへ抜ける道があるはず。ガイアのクリスタルは強いわね。クジャのアルテマに破壊されかけたけど、また元のように光り出しているわ」
「あ。そうだ、ミコト……」
「わかってる。もう見てきたわ。あれ、クジャのお墓なのね?」
 ミコトは俯いた。
「ジタン。私からも言わなきゃならないことがあるの。ビビが……」
 ジタンの表情が一瞬で険しくなった。
「……止まったのか?」
 ミコトは何も言わず、頷いただけだった。






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