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 ビビの最後の言葉を、ミコトはジタンにも話して聞かせた。
 「あなたのこと、本当に好きだったんだなって、思ったわ。そんな風に純粋に人を好きだと思えることが、素晴らしいってわかったの。それに、大事な人を失うことの辛さも知ったわ。それで、居ても立ってもいられず、イーファの樹へ行ったの」
 イーファの樹の内部へ行ってみると、強い「気」を感じる場所があった。
 それは、テラの魂に反応したような「気」だった。
 ミコトはそこをくぐり抜け、ブラン・バルへと落ちたのだという。
 「何かの加減で出来る小さな次元の狭間だと思う。イーファの樹って、元々テラのものだから。あなたもそこを通ってきたのね」
 「こっちからは出られないのか?」
 「ええ。一時的にテラへの入り口は開くみたいだけど。こっちから向こうへは出られないわ」
 「そっか……」
 「とにかく、クリスタルの所へ行きましょう。あそこなら、ガイアへの道が開いているはず」
 
 
 ミコトがいなかったら、ジタン一人でクリスタル・ワールドまでは辿り着けなかっただろう。
 ミコトは、その膨大な知識の詰まった頭脳で、クリスタルまでの道を切り開いていった。
 辺りの光が赤く変化した。
 クリスタルが近い証拠だ。
 「クリスタルはまだ光っているのか……」
 ジタンが呟くと、ミコトが頷いた。
 「そうよ。たとえテラの空間が消滅しても、クリスタルは淡く光って残ると思うわ」
 魂の循環が止まったテラのクリスタル。
 ほんの淡い光を保ったまま、その命をガイアの中で保ち続けるのだ。
 
 
 クリスタルへの道はかなり荒れ果てていた。
 遙か昔、ガーランドが作ったらしい道の瓦礫を撤去し、少しずつ進んだ。
 ようやく辿り着いた先は、テラの淡い光が漏れている場所だった。
 ミコトは目を細めて見ていた。
 ジタンには、懐かしくもない光だ。
 テラのクリスタルを見たのは初めてだった。
 クリスタルの周りを探しまわったが、結局次元の狭間は見つからなかった。
 「たぶん、もう少しガイアのクリスタル寄りの所だと思うわ」
 ミコトはスタスタと、迷うことなく歩いていく。
 少し行くと、虹色に光る穴が見えた。
 「これか?」
 ジタンはじろじろと穴を見つめた。
 「そうよ」
 ミコトは、事も無げに言った。
 ……じゃぁ。
 「帰れるのか、ガイアに?」
 「そうよ」
 ミコトは頷き、そして、はっとした顔になった。
 「そうよ、ジタン。帰れるのよ、やっと!」
 途端に、ジタンの顔はぱっと輝いた。
 「よし、じゃ、行くぞ」
 「ちょ、ちょっと待って!」
 ミコトが慌てて制止する。
 「何だ?」
 「たぶん、そこをくぐったらもう二度とテラへは帰れないわ」
 「だろうな」
 当然、というようにジタンは頷いた。
 「あなた、それでいいの?」
 「え?」
 ジタンは目を丸くした。
 「だって、これでもここは一応、あなたの生まれた世界なのよ?」
 「でも、オレの故郷はガイアにあるよ」
 あっさり答えを返され、ミコトの目は寂しそうに光った。
 「そう……そうよね。ごめんなさい、変なこと言ったわね」
 ジタンはじっとミコトを見つめた。
 「ここに、残りたいのか、ミコト?」
 「……わからないわ」
 ミコトはじっと、向こうの方で光るテラのクリスタルを見つめた。
 「私、よくわからないの。黒魔導師の村で暮らしてみて、「生きる」ってことを学んだと思う。それは同時に「死ぬ」ってことも知ることだった。恐くなったわ。ガイアのクリスタルが恐かった」
 死んだ魂を拾い、新しい魂にして還す。
 ガイアにとったら当たり前の命の営みが、テラにはなかったから。
 「でも、あなたを見て思ったわ。あなたの魂は、テラにいようと、どこにようと、ガイアに支配されているって。私もそうなりたいって、思った。でもね、ジタン。テラは私の故郷なの」
 「いつか帰るところ、ってことか?」
 ジタンの目に真っ直ぐ見つめられ、ミコトは思わず黙り込んだ。
 「オレのいつか帰るところは、タンタラスだったり、ダガーだったりするけど。ミコトの帰るところはここなのか?」
 「それは……」
 「ミコト、今、言ったよな。ガイアのクリスタルに自分の命を支配されて生きたいって。それって、ガイアで生きたいってことだろ?」
 ―――そうだ。
 自分はガイアで生きたいのだ。
 ミコトの迷いを断ち切ろうとしながら、ジタンは自分の迷いを断ち切っていた。
 どんな理由で生まれようとも。
 それはただ、そう生まれたってだけで。
 どう生きるかは、自分で決められる。自由なんだ。
 「一緒に帰ろうぜ、ミコト」
 ジタンが差し出した手に、ミコトは自分の手を重ねて頷いた。
 
 
 
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