<6>


 何事もなかったように芝居は進んだ。
 そして、マーカスの独語シーンまで来た。
 観客たちは―――屋根の上の観客も含め―――「シッポ男」のことなど忘れて芝居に見入っていた。
「なんやぁ、ジタン。ちゃんと台詞覚えとるやん」
 舞台裏で、ルビィが小さく呟いた。
「そうっスね。ジタンさん、なんか台詞に気持ちがこもってるっス」
「よく考えたら、ジタンと姫さんのことみたいやもんな、この芝居」
「うまくいってるずらね!」
 シナが出番を終え、上手側から走ってきた。
「まぁ、うちの指導がよかったんやろ」
「いや、ありゃあ、元から台詞覚えてやがったんじゃないか、ジタンのヤツ」
「なんやのブランク、うちの言うことに難癖つける気ぃ!?」
「しーっ!」
 普段ルビィには逆らわないマーカスとシナが、さすがに人差し指を口に当てて注意する。
「ブランク、後でな」
「……」
「兄キ、またやっちゃったっスね」
「あ、ほら、もうすぐずら!」
 そう、舞台は、着々とその時を迎えようとしていた。
 ジタンの手がマントに掛かる。
「会わせてくれ!」
 タンタラスの面々は皆、息を潜めた。
 どうなるだろうか。
 ばさっとばかりに、マントを剥がすと、ジタンはロイヤルシートを見上げた。
「愛しのダガーに!」
 一瞬、会場の時間が止まる。
「あ、シッポ男!」
 誰かが叫び声を上げた。
 と同時に、何人かが失笑する。
「なんだよ、失礼な」
 ジタンは苦笑い。
 しかし、それをも飲み込むような騒ぎが客席に起きたのは言うまでもない。
「あの人、誰!?」
「知らないの、ほら……」
「えっと、リンドブルムの……」
「女王様の待ち人?」
「死んだんじゃなかったのか!?」
「やっぱり生きてたんだ!」
「帰ってきたぞ!」
「まさか!」
 わいわいがやがや。
「ねぇ、女王様は!?」
「待て、お席にいらっしゃらないぞ!」
「どこへ行かれたのかしら?」
「お手洗い?」
 おいおい。
 人々は舞台の上の人物に興味津々。
 彼は余裕の笑みで観客を見渡した。
 仲間たちが揃っている。
 フライヤと、あ、フラットレイも。
 エーコ、……おや? シド大公とヒルダ妃の隣にいる。
 ジタンは持ち前の勘を働かせた。
 ―――ふむ、なるほどな。そういうことか。
 サラマンダー、呆れ顔だ。その癖、隣にいるのは、ラニとかいったっけ、あの美女じゃないか。
 クイナに、それから……。
 あれが、ビビの子供たちか。
 その瞬間、彼は城のドアが勢いよく開かれるのを見た。
 え?
 ダガー?
 彼女は人々をかき分け、必死に舞台の方へ走っていた。
 ―――あ!
 落とした! ダガー、宝珠を落としたぞ!
 しかし、彼女は一瞬立ち止まったものの、またこちらへと走り出す。
 ジタンもぴょんっと舞台を飛び降り、客席の近くへ。
 ガーネットはティアラも脱ぎ捨て、跳ねるように飛び込んできた。
「ジタン!」
 ぎゅっと捕まえて、ふわりと地面に下ろす。
「やぁ」
 ジタンはガーネットの顔をのぞき込むと、片目をつぶって戯けて見せた。
 ガーネットの顔が見る間に泣き出す。
「バカ! ジタンのバカっ! 私がどれだけ……」
 後が続かず、ガーネットはジタンの胸に顔をうずめた。
 つやつやの黒髪はすっかり伸びて、元の長さに届くくらいだ。
 そっと撫でてみる。
 帰ってきたんだ。
 突然、それが実感となって湧き上がった。
 帰ってきたんだ!
 ジタンはガーネットをぎゅっと抱き締めた。
「ごめん」
 そっと呟く。
 観客の歓声がこだまする中、二人はいつまでも抱き合っていた。
 その二人に、光が射す。ロイヤルシートのスタイナーとベアトリクスが掲げる剣から、夕日の光が照りつけたのだ。


***


「よかったぁ……」
 ルビィは目に涙をにじませながら微笑んだ。
「よかったっスね……」
「ホントに、よかったずら〜」
 各々の胸に、ジタンが帰ってきたのだという喜びが、改めて湧き上がる。
 今の今まで、そんなことに感慨を覚えるような暇は全くなかったのだ。
 表では、エーコが二人に走り寄った。
「もう、ジタン! 心配したんだからね!」
 頬を膨らませて抗議する。
 それを見たビビの子供達も彼らの元に走り寄り。
 仲間たちが次々と彼らの元へ集まりだした。
「うちも行ってくる!」
 ルビィが舞台裏から飛び出す。
「お、おい!」
 ブランクが慌てて引き止めようとしたけれど、もう遅い。
 彼女は舞台から飛び降り、二人に駆け寄って行った。
「お、俺も行くっス!」
「オイラもずら!」
 マーカスとシナも行ってしまう。
「待てってば、お前ら!」
 ブランクは舞台まで走り出て、ジタンと目が合った。
「あ〜あ、嬉しそうな顔しやがって、まったく」
 ブランクは呟き、ま、いっか、と独りごちる。
 第一、バクーはいつの間にか客席に陣取り、誰よりも大喜びしているのだし。
 仲間たちの輪に、ブランクも入り込むことにした。


***


 客席や屋根の上から、惜しみない拍手が沸く。
 人々は口々に二人の幸せを称えた。
 ―――が。
 ジタンは突然跪いた。
「それでは、女王様。今からわたくしめがあなた様を誘拐させていただきます」
 と言うが早いか、ガーネットを抱き上げると、仲間たちの輪からぴょんっと飛び出した。
「ちょ、ちょっと、ジタン……!?」
「こらぁぁぁ、ジタ―――――ン!!!」
 スタイナーがロイヤルシートから身を乗り出し、剣を振り回して怒り出した。
「へへ、悪いなおっさん。女王様はいただいていくぜ!」
 ジタンはお世辞にも行儀がいいとは言えない台詞を残し、ぴょんぴょん跳ねる様に走っていってしまった。
 客席から笑い声が起こる。
「まぁ、よいではないか」
 と、シド大公。
「もう、お父さんったら。そんなこと言っちゃっていいの?」
 エーコが非難する。
「ほぅ、エーコもいよいよ大公殿を本当の父君のようにのう」
 フライヤが冗談めかして言うと、エーコは飛び上がって憤慨した。
「そ、そんなことどっちだっていいじゃない!」
「ねぇねぇ、今のがジタンなんだよね?」
 ビビの子供たちが、照れて赤くなったエーコを取り巻いて口々に騒いだ。
「そうよ! 見るにも稀な美男子でしょ!?」
「??」
 ビビの子供たちは全員きょとんとする。
 バクーが立ち上がり、笑いをこらえ切れないような顔で舞台へ上がった。
「さて、お集まりの皆様。今宵はこのあたりでお開きと致したいのですが、よろしいですかな?」
 観客たちはやんややんやの大喝采で彼の口上を認めた。
「ではでは、皆様。またお会いする日を楽しみに……」


-Fin-





緋焔女史より、この小説のイメージイラストをいただきました〜!
こちらからご覧下さいませv






最後までお読みいただきありがとうございました、パート2。
えっと・・・ガネver.を読んでいらっしゃらない方もおられると思うので。
書いた自分で読んでも即刻帰りたくなる、FF9って言ったらED?なノリで書いた愚作でございました。
いきなり背景が変わるのって実は結構迷惑ですよね〜・・・すいません(^^;)
題名がまたよくある題名で、芸も何もないのでした・・・。
さらわれた女王ですが、ご安心を。ちゃんとこの後帰ってくるのでね(笑)
2002.9.12




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