<4> テラの青い光は恨めしいほど透き通っていて。 イーファの樹の不安定な磁場が創り出した次元の穴から、ミコトはこの世界へ落ちてきた。 その瞬間、希望を見た気がした。 もしかしたら、彼らは同じような穴を通ってテラへ落ちたのではないかしら。 そう、思った。 しかし。 元ブラン・バルへ辿り着いてみると、土に墓標が立っていて。 一つの希望は既に断たれていることを悟った。 知らず涙が零れて。 ……なぜ、彼のために泣くのだろう? ガイアを、テラを、世界を奈落へと陥れた、かの人のために? 「あなたも、私にとっては唯一の存在だったわ、クジャ」 ミコトはそう呟いた。 「……あなたのしたことは正しいこととは言えなかったわ。……けれど、あなたは私たちにたった一つだけ、希望を与えてくれたの。例え造られた目的が過ちだったとしても、それを克服した生命が生まれたってこと―――私たちはその記憶を絶やしたくないと思った。……そう思うのは不自然なこと?」 小さく、息を吸い込む。 何の混じりけもない、ただの空間。 風の匂いも、太陽の匂いもしない。 ―――お別れだわ。 「私たちは信じたいの。私たちがこの世に生を受けたことは、決して間違いじゃなかった……って」 あなたは強かった。 あなたは脆かった。 あなたは生きていた。 確かに生きていた―――。 私たちは忘れないわ。 あなたが紡いだ希望と絶望。 あなたが築いた運命と偶然。 あなたの記憶は、私が確かに受け継いだ。 だから、安心して。 ミコトは足を踏み出した。 二度と振り向くまい。 そう、ここに彼の墓があるということは。 ―――もう一つの希望が、どこかで生きているということだから。 *** 元パンデモニウムの辺りまで来た時。 モンスターではない気配を感じた。 瓦礫の積み上がった向こう、金色の頭がきょろきょろと動いている。 ―――ジタン。 やっぱり……。 やがて、青い目は強い光を称えたまま彼女を見つめた。 ミコト? と呼ばれ。 唐突に涙が溢れ出す。 「お、おい」 慌てて駆け寄ってきた彼に、 「……ジタン、生き……てた……の?」 と、問い掛けた。 「あ、ああ。たぶん生きてるんだと思うけど」 「ごめん……ごめんなさい!」 ミコトはその場に蹲って泣き始めた。 もっと早く来れば―――彼をこんなにも長い間閉じ込めなくて済んだだろうに。 なんて、取り返しのつかないことをしたのだろう……! 私が来れば、クリスタル・ワールドに次元の穴があるかもしれないことぐらい、容易に想像が付いたのだから。 でも。 彼は笑って言った。 ミコトが来てくれてありがたい、と。 「オレ一人じゃ永遠に抜け出せなかったかもな」 と、頭を掻いて、いつものように。 ―――ビビのことを話すと。 ジタンは一度目を閉じ、しばらくそのままじっと動かなかった。 やがて、深い溜め息と共に目を開けた。 彼は何も言わなかった。 代わりに、ミコトは自分が感じたことを素直に打ち明けた。 ビビにとって、ジタンが大切な人だったとわかったこと。 大切な人を失うことが悲しいということ。 そう思ったら、どうしてもイーファの樹へ行かなければと思ったこと。 ミコトは一生懸命話した。 沈黙は怖かった、から。 |