<5>



 クリスタルまでの道のりは、容易なものではなかった。
 所々が倒壊し、瓦礫に埋もれ、道がなくなっていたり。
 しかし、一度そこを通ったことのあるミコトは、その時の記憶を手がかりに歩くことが出来た。
 やがて、辺りの光が赤く変化し出した。
 クリスタルが近い証拠だ。
 大きな瓦礫の山を迂回して。
 ようやく、クリスタルの目の前へ出るのに随分時間がかかった。
 ガイアでは、仲間たちが心配しているに違いない。
 ―――仲間?


 赤い、テラのクリスタル。
 以前ガーランドに連れられてきた時より、さらに光は弱くなっていた。
 テラの魂が循環するクリスタル。
 だから何だと思ったあの時と。……今、感じる感情は違う。
 哀しい。かつては命の循環を繰り返していたのに。
 今は、ただ澱んで流れもしない。

 ガイアへの次元の狭間は、近くには見当たらなかった。
 もう少しガイアよりの場所へ移動して、ようやく目当てのものを見つけた。
 ―――あの虹のような光。
 次元が歪んでいる。
「これか?」
 ジタンが穴を見つめて言う。
「そうよ」
 ミコトは頷いた。
 途端、ジタンは勢い込んだ。
「帰れるのか、ガイアに?」
「そうよ」
 ミコトは頷き。
 そして、はっとする。
「そうよ、ジタン。帰れるのよ、やっと!」
ミコトがもう一度強く頷くと、ジタンは目を輝かせた。
「よし、じゃ、行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って!」
 ミコトは慌てて制止する。
 ―――そこをくぐれば、もう二度とテラへは帰れない。
 それで、いいの? と。
 ……しかし。  ジタンは、迷ってなどいなかった。
 そう、彼の故郷はガイアなのだ。
「ここに、残りたいのか、ミコト?」
「……わからないわ」
 ミコトはじっと、向こうの方で光るテラのクリスタルを見つめた。

 生きることを教えてくれた、黒魔道士の少年。
 笑うことを教えてくれた。
 怒ることを教えてくれた。
 悲しむことを教えてくれた。
 泣くことを教えてくれた。

「ミコトの帰るところはここなのか?」
 と、問われ。
 答えにつまる。

 自分はこの場所に何を求めるのだろう。
 自分はこの場所に何を思っただろう。
 この場所が自分に何を与えてくれた?
 この場所は自分に何を教えてくれたの?
 『造られたもの』たること?
 『代替物』たること?
 『器』たること?
 でも、私は生きている。
 笑ったり、泣いたり、怒ったり出来る。
 私は私の人生を生きているのよ?

『ミコト。きっと帰っておいで、この村に。みんなで待ってるからね』

 突然、そう言われたことを思い出して。
 ―――帰っておいで、と。
 そう言ってくれた。
 そう、私の帰るところは……

「一緒に帰ろうぜ、ミコト」
 気が付くと、ジタンが手を差し伸べてくれていた。
 ミコトは、その手に自分の手を重ねて頷いた。



  ***



 黒魔道士の村は大騒ぎになった。
 長く姿の見えなかったミコトが帰ってきただけでなく、なんと、死んでしまったはずのジタンまでもが一緒だったのだから。
 しかし、渦中の一人は翌日、朝一番の飛空艇で霧の大陸へと発っていった。

 ミコトは、ビビの墓の前で一人、膝を抱えて座っていた。
 不思議なほど、晴れてしまった自分の心。
 ジタンを連れ帰ることが出来たことは、本当によかったと思う。
 ―――もっと早く、という気持ちは拭い去れなかったけれど。
 でも、もし今より早い時期だったとしたら、結局自分はあの世界を棄てられなかったのではないか、とも思う。
「こうしてここにいられるのも、あなたのお蔭ね」
 ミコトはにっこりと笑った。
「あれ、珍しいね。君がそんな風に笑うなんて」
 歩み寄ってきた288号が、少し驚いた声でそう言った。
 ミコトは答えず、もう一度微笑んだ。
「何がビビ君のお蔭なんだい?」
「私が帰ってこられたことよ」
「ああ、なるほど。側でビビ君が守ってくれたんだね、ミコトを」
 ……そうかも知れない。
 前の自分だったら、決してそんな言葉に肯いたりしなかっただろう。
 クスリ、と笑う。
「やっぱり、帰ってこられたのはあなたのお蔭だわ、288号」
「え、僕かい?」
「ええ。あなたが、帰っておいで、って言ってくれたことを思い出したの。それで、ここに帰ってきていいんだって、強く思えたのよ」
「―――そうだったのかい」
 彼は金色の瞳で微笑った。
「なら、言っておいてよかった」



 この村は、いろいろな光に満ちている。
 陽の光、人の温かさ、花、鳥、―――命。
 風の匂いが、ミコトの髪を掠めて過ぎていった。


-Fin-



いつか帰るところ、ミコトバージョンでした。
というか、ビビ&ミコトバージョン、かな(^^*)
ミコト視点によるED中のお話でございました。
彼女視点で書くと、ジタガネ視点だけでは書けなかった部分がうまく書けたので(^^*)
ビビのことも書けたしねv ジタガネだけだとビビがほとんど出てこない・・・。
ジタン視点なんて、ビビ全然出てこれない(;;)
ビビとミコトがED中に語ってくれた言葉をそのまま織り込みつつ、の物語でございました。

いまいちまとまりのない小説ではありましたが、
お付き合いいただきまして、ありがとうございました〜♪

2002.11.9




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