***
「ねぇ、ジタン。今度の週末空いてる?」
ガーネットが突然そんなことを尋ねるので、ジタンはもう少しで飲んでいたお茶を噴き出すところだった。
「んな、なんで?」
「あのね、どこか旅行に行こうと思うの」
「旅行?」
「ええ、そうよ」
にっこり微笑み、あっさり返すガーネット。
ジタンはしばらくびっくり眼で瞬きを繰り返す。一体全体、ガーネットに何が起きたのか!?
ジタンの返事がないので、ガーネットは瞳を曇らせた。
「もしかして何か用事でも……」
「ないない! ぜんっぜん、ヒマ!」
「そう、よかった。フライヤが、忙しくて今月の週末ではこの日しか空いてないって言うからどうしようかと思ってたの」
と、スケジュール帳を片手に頭を左右に揺らした。
「―――フライヤ?」
「ええ。フライヤにエーコ、スタイナー、ビビ、クイナ、サラマンダー。これで8人ちょうどだわ」
―――がく。
「ど、どうしたの、ジタン?」
まさかよもや天と地がひっくり返ってもガーネットが二人っきりの旅行に誘ってくれるわけがあるはずない、と思ったのだが。
やっぱりあるはずなかった……(涙)
ガーネットは不安そうに、虚ろなジタンの顔を覗き込んだ。
「ジタン? もしかして行きたくないの?」
「まさか!」
と、ジタン。
「みんなで行くんだろ? オレも行くよ」
にっこり笑いかけると、ガーネットも笑う。
「よかった。あなたが行かないって言ったら人数足らなくなっちゃうもの」
「人数?」
「ええ。8人以上だと1割引なの」
と、嬉しそうにチラシを見せてくれる。
『1泊2日グルグ温泉の旅! 格安198ギル!!
8人以上の団体様はさらに1割引』 |
「……」
「どう、すごいでしょ!?」
ガーネットは黒い瞳をキラキラさせていた、が。
王女様が1割引でここまで喜ぶなら旅行会社も苦労しないな、と呟くジタンであった。
<1>
「わ〜い! 旅行日和のお天気なのだわ〜v」
と、小さなリュックを背負ったエーコ。
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
その隣には、大きくて重そうな荷物を持ったビビ。
「ちょっと、ビビ。そんなに何持ってきたのよ!」
「え? えっとぉ……ボク、旅行なんて初めてだから、使いそうなものいろいろ入れてきちゃって……」
「バカねぇ、荷物が重いと面倒臭いでしょ?」
「う、うん、ごめん……」
「別に、あんたが勝手に重いんだから、エーコとは関係ないのだわ!」
「えぇ〜(涙)」
「ほらほら、喧嘩しないのよ。これから楽しい旅行なんだから」
と、ガーネットが間に入ると。
「別に喧嘩なんてしてないのだわ! ね、ビビ?」
「う、うん」
と、頷き合う。
「そう、ならいいけど」
ガーネットは優しく微笑んだ。
「それに、移動には貸切飛空艇を使うから、少しくらい荷物が多くても大丈夫よ」
「よかったぁ……」
胸を撫で下ろし、ビビはもう一つ付け加えた。
「ボク、おやつも持ってきたんだ」
「ホントに!?」
エーコが飛び上がって喜ぶ。
「なによぉ、気が利くじゃない、ビビったら!」
「う、うん、ありがと」
照れたように、帽子を直す。
「―――ところで、みんな遅いわねぇ」
と、ガーネットが呟いた時。
「姫さま―――――っ!!」
ガシャガシャガシャガシャ。
「……来たわ」
「やや、自分としたことがよもや姫様をお待たせてしまうとは愚行の極み! なんとお詫び申し上げればよいのでありましょうかっ」
「……い、いいのよ、スタイナー。みんなもまだなのだし」
「なんと! ジタンの奴、姫さまをお待たせするとはなんとふざけた輩であるか!」
「―――ジタンだけじゃないんだけどね(−−;)」
と、エーコが半目で反論するのだった。
ぼちぼち集まり出した仲間たち。
フライヤは、「すまぬ、飛空艇が遅れた」と走ってきた。
サラマンダーは気乗りしない顔で、やや遅れてようやく合流。
クイナはお弁当を作っていて遅れたらしい。
で、ジタンは。
「貴様ぁぁぁぁっ!」
「わぁ!」
やっと集合場所に辿り着いて早々、早速スタイナーに斬りかかられる。
ひょいっと避けて。
「なんだよ、おっさん!」
「なんだではないのである! 一体何分遅刻したと思っておるのか!」
「え〜っと、十五分?」
「遅いのである! その間、姫様はただただ貴様を待ち続け……」
「ごめんな、ダガー。ちょっと野暮用でさ」
「ええ、まぁ、いいわよ(^^;)」
「姫さま! そのように甘い顔をすればこの男はむぐむぐ……」
「さ、行きましょv」
……何をした、ガーネット!(笑)
「アイヤ〜、お昼にはまだ早いアルよ、スタイナー」
と、バスケットの蓋を閉めつつ、クイナ。
「お、昼メシはサンドイッチか」
「そうアル。たくさん作ったアルよ」
と、クイナは胸を張った。
スタイナーはサンドイッチが喉に詰まった模様……(哀)
|