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「ルビィちゃん、どうしたの? 全然食べてないんじゃない?」
と、そういう変化に大変敏感なルシェラがズバリと言った。
ルビィはというと、さっきからフォークで料理を突っついてばかりで、ちっとも進んでいない。
「どこか具合でも悪いっスか?」
マーカスが心配そうに尋ねた。
いつも元気いっぱいの彼女が、今日はどこか上の空で、ほとんどろくに喋りもしないのだから。
「え……? あ、いや、何でも……。ちょっと、食欲なくて」
「熱でもあるか?」
バクーは大きな手でルビィの頭を抑えて額に触ってみたが。
「ちと熱いかもな」
「え―――! じゃぁ、寝てた方がいいよ!」
「大丈夫やから」
ルビィは曖昧に微笑んだ。
「皿洗いだったらオイラ手伝っとくずら」
「あ、俺も手伝うっス」
「ええよ〜、平気やから」
ルビィが首を振ったけれど。問答無用に部屋へ連れていこうとする男が一人。
「ちょ、ブランク!」
「ほら、行くぞ」
手を引っ張られて階段を昇る。
『早いところ告白しちまった方がいいよ。後になればなるほど、言いづらくなるもんだからね』
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と言われたのを思い出し。
ルビィの心臓は、切羽詰って早鐘のように打ち出した。
「おい、ホントに大丈夫か、お前」
俯いたまま自分の部屋を通り過ぎそうになったルビィを抱き留めると、ブランクは首を傾げた。
「どうしたんだよ」
「……」
「ルビィ?」
顔を覗き込む。
「―――! ルビィ?」
彼女は声もなく泣き出していた。
震える肩をぎゅっと抱き締めて、どうしようかとブランクは焦った。
「なんだよ、どうした」
「―――ブランク」
「ん?」
「あの、うちな……」
「うん」
息を整えると、ルビィはブランクから離れた。
―――言ったら、どういう顔をするのだろうか。
やっぱり、逃げてしまうのだろうか……?
「うち―――その……」
「なんだ?」
心配そうな茶色い瞳に捕らえられる。
心臓の音がますます激しくなる。
――――う〜、耐えられん……!
ぎゅっと目を閉じて、ついに一言絞り出した。
「……子供が出来てしもうた」
「へ?」
ルビィは心を決め、目を開けてもう一度言った。
「妊娠してもうたんや」
ブランクは目を見開いたまま固まってしまった。
「―――ごめんなさい」
俯いて呟いた瞬間、今度は優しく抱き締められた。
「ルビィ! なんで謝るんだよ」
「……せやかて」
「本当なのか?」
ルビィはこくっと頷いた。
「それで元気なかったのかぁ―――」
と言って、彼は安堵の溜め息を漏らした。
そして、
「ごめんな」
「え?」
ルビィは抱き締められたまま、混乱状態に陥って何を言われているのかわからなかった。
「いや、順番逆で悪かったと思ってな」
「な、何?」
「つまり―――結婚しようぜ」
びっくりして、ルビィはブランクから離れた。
「えぇっ?」
「当たり前だろ?」
と、ブランクの方が驚いて返す。
「って言っても、ガキが出来たから責任とって、って訳じゃなくて。もう少ししたら言うつもりだった」
ルビィの瞳から、思わず涙が零れ落ちた。
頬を伝う雫を指で拭うと、ブランクはもう一度ルビィを抱き締めた。
「結婚しよう、ルビィ」
ルビィは泣きながら、しっかりと頷いた。
「うん……ありがとう、ブランク」
―――ということで。
「よし、そうと決まったらみんなに報告だ」
ブランクは、今度は慎重にルビィの手を引いて、再び居間へと戻ろうとする。
「え?」
と言っている間もなく、ルビィは彼女を引っ張る手に任せてついて行った。
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