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「はい?」
 と、顔を出したジェフリーは一瞬固まった。
 暗澹たる表情のサファイアが、驚くほど透き通った青い瞳で彼を見上げていた。
 目に、異様な決意を感じる。
 ジェフリーは、喉に何かが詰まったように声が出なかった。
 しばらくして、サファイアが口を開いた。
「入ってもいい?」
「え? あ、ど、どうぞ! 散らかってるけど!」
 ジェフリーは慌ててサファイアを部屋へ招き入れた。
 スタスタと部屋の真ん中まで歩くと、サファイアはくるりと振り向いた。
 無機質な瞳が、彼を見つめていた。
 ぞっと、背筋が凍る。
 もう随分、こんな目をしたところを見たことがなかった。
 こんな目をさせたのは、自分だ……。
 ついに突きつけられる言葉を、ジェフリーは堪えられそうになかった。
 だから、俯いて目を閉じた。
 ぎゅっとこぶしを握り締め、彼は最後通牒を待った。
 しかし。
 彼女はいつまでたってもじっと黙っている。
 不意に衣擦れの音がして、ジェフリーははっと目を上げた。
「サフィー?」
 俄かには信じ難い光景に、とっさに目を逸らす。
「な、何してるんだよっ」
「あたし、決めたの」
 抑揚のない声が彼女の決意を伝える。
「あなたが望むことは、何でもしようって。大人になろうって、決めたの」
 次第に声が震えだす。泣き出しそうな声で、彼女は必死に言葉を紡いだ。 
「……あなたが必要なの、あたしには。ずっと、繋ぎとめておきたいの。……あたしは、あなたが好きだから。好きだから、だから……」
 ―――ついに、声は途切れた。
 後には、刺さるような沈黙だけが残される。
 ほんの一瞬が、何万光年もの長さに思えるほど。
 ジェフリーは思い切って、彼女に向き直った。
 床に落ちた彼女のシャツを拾い上げ、震える肩に掛けてやる。
 サファイアは怯えたようにぎゅっと目を閉じていた。
「サフィー」
 できるだけ、優しく呼びかける。
 サファイアは恐る恐る目を開けた。
「……バカだな」
 ―――俺が。
 この子にこんなことまでさせるなんて、なんて俺はバカなんだ。
 ジェフリーは思わずサファイアを抱きしめた。
「バカだな、ホントに! 何やってんだよ、まったく」
「だって……っ!」
 サファイアはすすり泣き始めた。
「こうでもしなきゃ……っく、あなたを振り向かせられないって……ひっく、思ったからっ!」
「こんなことしなくたって、俺はお前しか見てないよ」
「嘘よ!」
 不意に強い否定の言葉。
「だって、だって……ひっく、見ちゃったもん、あなたが誰か女の子と、っく、歩いてるところ」
「はぁ?」
 ジェフリーは思わずサファイアを引き離した。
「俺が誰と?」
「知らない。可愛い子だった……ひっく」
 サファイアは頬を伝う涙を手の甲で拭った。
「手紙、もらったんでしょ?」
 手紙?
 手紙、手紙……。
「あぁぁぁぁぁぁっ!」
 突然叫び声を上げたジェフリーに、心底不審そうなサファイアの目。
「うわっ、いや、それ違うって!」
「何が違うの?」
「その子は、いやまぁ、その、確かに手紙はもらったけど」
 ……好きだって書いてあったけど、と、正直に付け加えるジェフリー。
「ほら、ピーター・パンやっただろ? あの舞台を見に来てくれたらしくてさ、それで手紙くれたんだよ、うん」






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