酒は呑んでも呑まれるな?
<1>
あの戦いが終わって二年。
彼が彼女の元へ帰って二ヶ月。
共に戦った仲間たちは、終戦記念日の今日、二月ぶりに集結していた。
ブルメシアからフライヤ。
リンドブルムからエーコ。
トレノからサラマンダー。
ガーネットは勿論のこと、スタイナーもクイナも、アレクサンドリアにいた。
―――そして、なぜかあのジタン・トライバルまでもが、未だこの城にとどまっていた。
シッポとブリキの追いかけっこはほぼ毎日続いており、アレクサンドリア城の新たな名物になりつつあった。
それもこれも、ジタンが城で暇を持て余しているせいだと悟ったガーネットは、久しぶりに仲間たちを城へ呼び集めることにしたのだ。
何より、日々執務に追われているガーネットにとっても、仲間と再会することは嬉しいことだった。
「ダガー! 元気だった?」
「エーコ、久しぶりね!」
飛空艇から降りるなり走って飛びついてきたエーコを、ガーネットは優しく抱きとめた。
「エーコったら、背が伸びたんじゃない?」
「そうかしら?」
エーコはスカートを軽く摘み上げ、爪先立ちで小首を傾げる。
「大きくなったわよ。ねぇ、ジタン?」
呼ばれた彼は、頭の後ろに手を組んだまま、歩み寄ってきた。
「そうだな〜。初めて会ったころは、まだ膝くらいしかなかったもんな」
「そんなに小さくなかったのだわ!」
エーコは背伸びして抗議する。
確かに、前のようにジャンプしなくても、悪戯そうな青い目を十分睨みつけられるだけの背丈になっていた。
「わかったわかった、怒るなって」
と、笑うジタン。エーコの紫色の頭に手を乗せ、
「すっかり大人っぽくなっちゃってさ、ホント見違えたよ」
「本当?」
エーコは瞬く間に機嫌の良い笑顔になった。
傍から見ていれば、仲の良い兄妹のように見えるこの二人。
しかし、ガーネットは何となく胸騒ぎがして、落ち着かなくなった。
***
仲間たちは、城の晩餐室でパーティを催すことになった。
パーティ、と言えば聞こえはいいが、メンツから言って要するに宴会である。
少し酒も入れば、話題は自然と砕けた内容に。
「で、フライヤんとこはいつの間に寄り戻したんだよ〜」
と、浦島太郎のジタンがぼやく。
「納まるべきものは納まるべきところに納まるものなのだわ」
エーコが大人っぽい口ぶりで言った。
「びっくりだよなぁ。おっさんとベアトリクスが結婚するって方が、もっとびっくりだけどさ」
話を振られ、結婚秒読みのスタイナーは耳まで赤くなった。
「う、うるさいっ! 貴様にとやかく言われる覚えはないのである!」
「べっつにとやかくなんて言ってないぜ? やることはやってるなぁ、と思っただけ」
ジタンはからかうような目でスタイナーを見た。
「な、な、何を貴様……!」
思わずガシャンと立ち上がるスタイナー。
「あれ? やっぱりやることはやっちゃったわけ? さっすが隊長、キメるところはキメるんだな〜」
「黙れサルめが!」
剣を抜こうとするスタイナーの手を無言で押さえたのは、サラマンダー。
「宴の最中じゃ、物騒なものを抜くでない、スタイナー。こやつに振り回されておったら、身が持たぬぞ」
と、フライヤが涼しい顔で注意した。
スタイナーは「ムム」と唸っていたが、やがて腰を下ろした。
勿論、ジタンを一睨みし、「自分は貴様とは違うのである」と主張したのは言うまでもないが。
「そうと言えば、ジタン。おぬしの方はどうなっておるのじゃ?」
フライヤは、ジタンのコップに酒を注いでやりながら(スタイナーが「未成年に酒を飲ますなど……」とブツブツ言っていたが、さっぱりと無視された)、尋ねた。
「オレとダガー? もちろん、うまくいってるさ」
「ダガーに迷惑ばかりかけておるのではないか?」
フライヤが疑わしげな目で見る。
「そんなことないって。まぁさ、オレが来てから騒がしくなったって、ベアトリクスなんかは言うけど」
「そうよ、全部ジタンが悪いのよ!」
と、突然。
さっきからずっと黙っていたガーネットがキッパリと言い、他のメンバーは思わず彼女を振り返った。
その喋り方と声色に、異常さを感じたのだ。
ガーネットは頬をほんのりと上気させて、床に座り込んでいた。黒い瞳も心なしか潤んでいる。
ゴクリ、と誰かが唾を飲み込む音がした。
「ダ、ダガー?」
「だって、ジタンが悪いんじゃない」
恐る恐る近づいてきたジタンの腕を叩く。
叩くと言っても、ほとんど触る、に近い。
彼女の周りには、空っぽの酒瓶が数本転がっていた。
「……いつの間にそんなに飲ませたんじゃ?」
「……オレじゃないぞ」
「と、とにかくお部屋にお連れするのである」
立ち上がったスタイナーを押しとどめ、
「オレが連れてくわ」
と、ジタン。
「き、貴様などにそのような姫さまを頼めるか!」
「ふ〜ん、どのような姫さまだって?」
ジタンはニヤリと悪戯そうに笑う。
スタイナーはカンカンに怒り出した。
「貴様―――――っ! 汚い手で姫さまに触るなっ!」
「うっわ、おっさんひっで〜」
「そうよ、スタイナーはひどいわ!」
ビシッとスタイナーを指差し、ガーネットが合いの手を入れる。
「あなたが口煩くするからいけないのよ。わたしはもっとジタンと一緒にいたいのに」
その言葉を受け、仲間たちはほぉ〜、とジタンを見遣った。
当のジタンはガクッと頭を垂れる。
「隅に置けんのう」
「よ、色男!」
エーコの囃し立てに、最早対抗する気も起きない。
が、ガーネットの愚痴はさらに続く。
「最近、ちっとも会えないわ。わたしはこんなにジタンが大好―――」
「待てっ、ダガー」
ジタンは赤くなって、咄嗟にガーネットの口を手で押さえ込んだ。
「むぐむぐむぐ!」
……ガーネットはまだモゴモゴと何か言っている。
「と、とにかく。オレが部屋に連れてくから。な、おっさん」
「……何か企んでいるわけではあるまいな」
「もうちょっと信用しろよ。こんな状態のダガーを、オレがどうこうすると思うか?」
―――その場の全員が、「どうこうする」に1000ギル賭けた!(爆)
「うぬぅ……」
スタイナーは考え込む。が、やがて、
「わかったのである」
と、大きく頷いた。
「ただし、何かあったらただでは済まさん。覚えておくのである」
「わかったって」
ジタンはにっと笑って親指を立てると、ひょいっとガーネットを抱き上げた。
「んじゃ、お先に!」
―――信用していいのかスタイナー! と、その場の全員が心の中で突っ込んだ。
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