アレクサンドリアにとって至極特別な結婚式まで、残すところ今日のみとなった。
その渦中にある主役の二人も、今日は別々に独身最後の日を過ごすことになっていた。
というのも、ジタンがタンタラスのメンツにリンドブルムまで呼び出されていたためである。
はっきり言って迷惑だ、とジタンは最後までブツブツ言っていたが、その割嬉しそうな顔で出掛けていくのをガーネットは笑って見ていた。
明日から、彼は『籠の中の小鳥』になる。
いくら彼自身が望んだこととは言え、ガーネットの胸にはある種の惑いが去来していた。
―――明日になったら、わたしはわたしの手で、彼を鎖につないでしまう。
そう思うだけで、体中が震えてくる気がした。
ジタンがタンタラスのアジトに辿り着いた時には、既に中は酒盛りと化していて。
主役が登場したことで余計に盛り上がり、懐かしい昔話が飛び出すようになると、当の本人は本気で迷惑がっていた。
「おめぇ、タンタラスに入ったばっかりのころはよ。ピーピーよく泣いたもんだぜ」
と、バクーが言うと。
「夜中一人で便所にも行けなかったよな」
とブランク。
ジタンはカッとして赤くなった。
「―――っ! うるせぇな!」
「そうやぁ、あんたあの頃は可愛かったのにぃ〜」
と、既にかなり酔っ払っているルビィ。
「ルビィはその頃まだいなかっただろ!」
「そうやったっけぇ?」
嘯くと、ルビィはゲラゲラ笑い出した。
彼女、とんでもない笑い上戸なのだ。
「どっちにしたって、あんたついこの間までこ〜んなに小さかったやんかぁ」
と、腰の高さで手をひらひらさせて言う。
「んなに小さくないだろうが!」
「小さかったっスよ」
「チビだったずら」
「すげぇ気にしてたな」
と、トリオが肯く。
ジタンはぶんむくれてそっぽを向いた。
「そうやってす〜ぐ機嫌が悪ぅなるのも変わってへんなぁ」
ルビィはそう言って、またゲラゲラ笑い出す。
が、笑いながら、今度は泣き出した。
「あんなに小さかったあんたが結婚するなんてなぁ、なんや切ないわぁ」
と、まるで母親のようなセリフ。
そんなわけで今度は泣き上戸になったルビィ。そうなると、それが伝染する先は―――
「寂しいっスね……」
―――マーカスだ。
こうなると二人とも止まらないので、心得ている仲間たちは放っておくのだった。
「ところでよ、ジタン」
「ん?」
ブランクは内緒話でもするかのように声を潜めた。
「お前さ、本当に王様ってヤツになるのか?」
「―――まぁな」
「似合わねぇ―――大人しく飼われるタマかよ」
ジタンは、へへ、と笑った。
「んなわけないだろ」
「は?」
「大人しくしてるわけないってこと! オレはオレらしく、ダガーを支えるのさ」
あ、そ、とブランクは半目になった。
「ご馳走さん」
「別に惚気じゃないぜ?」
「どうだか」
二人が忍び笑いを漏らした時。
「おい、ジタン。おめぇさっさと城へ帰らねぇと。このバクー様が送ってやるぜ?」
「へ? なんで?」
ジタンは振り向き、首を傾げた。
「今日はこっちに泊まる予定なんだけど」
「明日の朝に間に合わねえど。姫さまの花嫁姿はおめぇが一番に見るんじゃねぇのか?」
途端、ジタンはガバッと立ち上がった。
ブランクは人知れず溜め息をつく。
―――どこまでも、お姫様に心奪われた情けない盗賊。
「そうだ! そんなこと全然考えてなかった!」
「へっ、んなこったろうと思ったぜ」
バクーは、ガハハと笑った。
「ほれ、飛空艇出してやるから早く仕度しな」
バクーは笑いながらアジトを出て行った。
ジタンは慌てて荷物を取りに走る。
「おい、本当にもう行くのか?」
「悪いな」
「―――まぁ、いいけどさ」
「また遊びに来るよ」
その言葉に、ブランクは悪戯っぽく笑った。
「そりゃぁまた、城の皆様方にゃ迷惑な王様だな」
「ま、な。ダガーが惚れたのがオレだったんだからしょうがないさ」
「お前がダガーに惚れた、の間違いだろ?」
幾分意地悪な返しに、それでもジタンは満足げに、ニッと微笑んだ。
「へへ、まぁな。―――んじゃ、もう行くから」
「おう、明日は全員で押しかけるからな」
「すげぇ、迷惑」
と言うと、ジタンはクスリと笑い、手を挙げてアジトを出て行った。
後に残ったブランクは、何とも言えない気分を胸に抱えた。
―――えらく手のかかる弟、だったけれど。
巣立つ背中は随分大きくなったと思う。奴は、もう大丈夫だろう。
ブランクはふぅ、と息をつき、ふと辺りを見回した。
そして、前よりもっと大きな溜め息をつくのだった。
アジトの床一帯に、完全に酔いの回った彼の仲間たちがすっかり寝こけており。
「ボスのヤツ……こいつらの面倒、俺に全部なすりつけやがったな」
呟いて、ブランクはやれやれと肩を落とすのだった。
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