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暫く抱き締めているうちに、ガーネットはすっかり泣き止んだ。
彼女の心の中はまだ何となく燻っていたが、もう迷いはなかった。
『籠の中では飼われない』
そうだ。わたしたちの物語は戯曲じゃない。
本物の「人生」だから。
誰かを愛して一緒に生きていくことは、籠の中に閉じ込めることなんかじゃない。
―――誰かを籠に閉じ込めるなんて、誰にも出来ないわ。
ガーネットは小さく溜め息をついた。
「ありがとう、ジタン。もう大丈夫」
少し泣き腫らした目で、ガーネットはにっこり笑った。
「安心した?」
と、青い目が笑いかける。
「―――安心は出来ないわ」
やっぱり、とジタンが呟くと。
「だって、あなたがこれからも自由に生きるってことは……」
ガーネットは頬を膨らませた。
ふざけたように首を傾げ、
「今まで通り、ってことだけど?」
と、ジタン。
「そんなのダメよ!」
「閉じ込めたくないんだろ?」
そう言われ、ガーネットは眉を寄せた。
確かにそう思ったけれど。
今まで通りふらふらと街に出かけたりして大丈夫だろうか?
劇団はともかく、盗賊家業も続けるのだろうか?
―――きっと、スタイナーが噴火する。
ガーネットはクスクス笑い出した。
「あれ、怒らないの?」
「今は怒らないわ」
「今はってことは、後で怒るのか?」
ガーネットは笑いながら腕を伸ばし、困り顔のジタンに抱きついた。
「あんまり怒り過ぎないように気をつけるわ。あなたの自由のために」
いつにないガーネットの行動に翻弄され、ジタンはかつてないほどぎこちないことになった。
***
次の日。
かの幸せな花嫁は、十六年間過ごした彼女の部屋ではなく、恋人が寝起きするのに当てられていた客室で婚礼衣装に袖を通す羽目になった。
最後の最後で棄てられてしまった不憫な王女の部屋は、次の主を待ち、長い静けさに包まれたのだった。
ある夜は眠りながら微笑む姫君を。
ある夜は枕を涙で濡らす姫君を。
ある夜は恋に心を焦がす姫君を。
ずっとずっと、守り包んできた部屋。
窓を開けた先、はためくカーテンの向こうには、今日も小鳥が群れ飛んでいる蒼い空があった。
-Fin-
・・・ごめん、ダガー。君達の物語は戯曲よりももっとひどい、せいの小説なんだよぉ(涙)
リクエストの内容は、
「思いっきり甘甘で少し切ないジタガネ、タンタラス登場、できるだけ長いお話」
ということでした♪
が。・・・すいません、これ以上長く書けませんでした(T_T)
しかも、甘い? 切ないか? いやジタガネか?(ぇ)という感じになってしまって(汗)
タンタラスも微妙に登場で(^^;) 申し訳ないです(;;)
一応、結婚前夜のお二人を書いてみましたm(_ _)m
書いている自分的には結構楽しかったかなぁ、と(そうなのか)
うちの姫君全然悩まない方なんで、こういうリクエストをいただかなかったら
書かなかったろうシーンでした。
リクエストありがとうございました〜!
2002.10.26
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