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 新婦が新郎の隣に並んだところで、神父は一度咳払いして説教を始めた。
 いかなる時も互いを敬い、いかなる時も互いを愛し。
 何があっても互いを支え、何があっても互いの傍にいる。
 夫婦として、同じ道を歩み、同じ人生を生きること……などなど。
 アレクサンドリア聖教会の神父は説教が長いことで有名であり、すっかり気が散っているジタンにガーネットは気が気でない様子。
 参列席に背を向けている以上、暇そうにふらふら揺れるシッポが丸見えなのだ。
 まぁ、そんなことを口うるさく注意するような人間もいないのだし、と、ガーネットは思い直して微笑んだ。
 ジタンも、それをわかっているのだろう。
 必要なら、しっかり演じてくれる。
 なにせ彼は、役者業までこなす盗賊、なのだから。
「新郎、ジタン・トライバル」
 説教が済んだところで、神父は厳かな響きを込めてその名を呼んだ、が。
「はいはい?」
 ぼーっとしていたジタンは、慌てて返事する。
「……返事は一度でよろしい」
 と、神父は眉を顰めて注意し、参列席から忍び笑いが漏れた。
 不審そうな目でガーネットが見上げると、ジタンはごめんごめんと、後ろ頭を掻く。
 神父は咳払いして、続けた。
「新郎は、新婦ガーネットを妻とするに当たり、アレクサンドリアの聖剣と多くの神々の御前に於いて、永久に純真を貫き、永久に妻ガーネットの夫であることを誓いますか」
「誓います」
「では、宣誓して下さい」

 今、我が人生の岐路に立ち、
 汝ガーネットを妻とし、新たなる旅路を踏みしめる時を迎え、
 ガイアのクリスタルが輝きを失うその日まで、
 病めるときも健やかなるときも、貧しきときも富めるときも、
 神に与えられた運命の下、死が二人を別つまで、
 我が心は汝と共に在り、
 我が愛は汝のためにのみ在ることをここに誓う。

「新婦、ガーネット・ティル・アレクサンドロス」
「はい」
「新婦は、新郎ジタンを夫とするに当たり、アレクサンドリアの聖剣と多くの神々の御前に於いて、永久に純真を貫き、永久に夫ジタンの妻であることを誓いますか」
「はい、誓います」
「では、宣誓して下さい」

 今、我が人生の岐路に立ち、
 汝ジタンを夫とし、新たなる旅路を踏みしめる時を迎え、
 ガイアのクリスタルが輝きを失うその日まで、
 病めるときも健やかなるときも、貧しきときも富めるときも、
 神に与えられた運命の下、死が二人を別つまで、
 我が心は汝と共に在り、
 我が愛は汝のためにのみ在ることをここに誓う。

 ガーネットが宣誓の言葉を唱え終えると、参列席の一部から冷やかし半分の歓声が上がった。
 神父は再び咳払いしてから、厳かにこう告げた。
「静かに。では、新郎と新婦は誓いの印に指輪を交換して下さい」
 ブランクはそこではっとして、上着のポケットから先ほど預かった指輪を取り出し。
 そのうちの小さい方をジタンに投げて寄越した。
「―――っと。……こら、ブランク!」
 慌てて銀の光を捕まえるジタン。もちろん、ブランクに非難の声を浴びせた。
 クスクスと、参列席から笑いが漏れる。
「……立会人は指輪を投げないように」
 既に諦めたような声で、神父は注意を与えた。
 はいはい、とうんざり顔のブランクは、しかしガーネットにはさすがに指輪を投げて渡しはしなかった。
 お互いの指に、きらきらと光る銀の輪を填め合う。
 ジタンがベールを持ち上げた瞬間、不意に、ガーネットの黒い瞳に涙が浮かんだ。
「では、花婿は花嫁にキスを」
 それだけで、件の参列席辺りからさらに歓声が上がる。
 「長いぞ〜」という声も。
「まだしてねぇだろっ!」
 と、ジタンが怒り、またまた会場は沸くのだった。

 式はすっかり喧騒の中に包まれてしまい、神父はほとんど自棄のように、
「聖アレクサンドリア教会の名において、たった今この時より、この二人を夫婦と認め、広く世に宣言致します。―――この若き夫婦に数多の幸せと、神々のご慈愛がありますように」


 教会の鐘がアレクサンドリアに鳴り響く。
 参列者たちは、口々にかの主役たちの幸せを讃えた。



***



 ここに、運命の出会いを経た愛があった。
 ここに、幾多の別れを乗り越えた愛があった。
 長い旅路の末、ようやく結ばれた恋人たち。
 二人がこの日の誓いを違うことは、永遠になかったという。

 ―――ただ、一つだけ。
 死さえも、二人を別つことが出来なかったことを最後に記しておこう。





-Fin-



・・・結婚式って、こんな感じでしょうか?(自信なし)
リクエストの内容は、
「ジタガネ、時間的には五月の薔薇の後に当たる結婚式系のお話」でしたv
ということで、「五月の薔薇」の続編、「五月シリーズ」と相成りました(何)
いやぁ、結婚式、リクエストがなかったら書かなかったですね、きっと(笑)
自分の中ではイメージ固まっていたのですが、
なかなか文章にすると「?」な感じになってしまって・・・(^^;)
せっかくリクエストくださったまきさん、こんなもんしか書けなくてすみませんですm(_ _;)m
・・・気合と愛だけはたっぷり入ってますんで!(笑)

ということで、なぜかせいの中ではジタガネは簡略系のお式イメージ。
いわゆる、適当系(笑)
本当はね、いろいろ決まりがあるんですよね、もっと。
でもま、こんな感じでv 薔薇園だしねvv
第一、アレクサンドリア聖教会はキリスト教とは違うんだしv(言い訳放題)
そうそう、アレクサンドリア聖教会は通称でして、
聖アレクサンドリア教会が正式名称らしいです(勝手に−−;)

2002.11.28





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