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 破天荒なサファイア。
 温厚篤実なダイアン。
 年子の二人は正反対の性格でありながら、どこかしら似た雰囲気がある。
 そして、その雰囲気を持たないのが長女エメラルド。
 彼女はいつも張り詰めた緊張感を心に通していた。
 それは、大概のことはおおらかに受け止めてしまう母ガーネットを、唯一心配させる種でもあった。


 アレクサンドリア城でエメラルドに会いたかったら図書館か薔薇園を探すとよい、ということをものの三日で習得した父が、分厚い本に読み耽る娘の元に現れたのは、お茶も済んだ午後のことだった。
「なんか、難しそうなの読んでるな」
 ジタンは椅子を引いて座りながら、僅かに苦笑した。
「クリスマスにもらった本は全部読んじゃったのか?」
「はい」
 エメラルドは礼儀正しく、父親の方に向いて座り直し、答えた。
「で、エミーは今まで読んだ中でどの本が一番好きなんだ?」
「『双子の月』が一番好きです」
 ズルッと椅子から落ちそうになりながら、血は争えないと思うジタン。
 『双子の月』―――は、バクーが書いた新作の戯曲。
 彼は豪放に笑いながらこう言ってのけたのだった。 
「『君の小鳥になりたい』をパクってやった」
 しかも、主人公のモデルはジタンとガーネットに他ならないのである。
 今では悲恋よりもハッピーエンドの恋物語が流行であり、そんな経緯から最近は『双子の月』ばかりが上演されるようになっていた。
「どこが好きなんだ、『双子の月』の」
 まさか両親の話とは露ほども知らない娘に尋ねる。
「盗賊が格好よくて、好きです」
 再び転げ落ちそうになるジタン。
「―――そりゃどうも」
「?」
 ちょこんと首を傾げる娘は母親似。
 きっと、幼い頃の彼女もこんな少女だったのだろう。
「でもさ、エミーももっと外で遊んだらいいと思うぜ、父さんは」
「薔薇園でお花のお手入れしてますもの」
「う〜ん。まぁ、人には向き不向きがあるからなぁ、何とも」
 お前はまさかサフィーのように城中走り回るような性格でもないし、と、ジタンは肯いた。
「それにしても、サフィーの破壊力は凄まじいな」
 溜め息をつく父親に、エメラルドはにっこり微笑んだ。
「お父さまに遊んでいただいて、嬉しくて仕方がないんだと思います、サフィー」
「手荒な歓迎の挨拶だな、まったく」
 困ったように後ろ頭を掻く父親。
 その表情に既視感があり、エメラルドはあることを思い出した。
「そういえば、お父さま。ダイアンがカードゲームを教えていただきたがってましたけど」
「あ、そっか。あいつ、今日も負けたんだったな。サフィーも昼寝の時間だし、いっちょ行ってくるか」
 ジタンは椅子から立ち上がり、軽い身のこなしで図書室を出て行った。
 不思議なほど身の軽い人だと、エメラルドは思う。
 大体、あのサファイアの全力疾走についていける人間は父だけだった。
 何か訳があることを、エメラルドは感じていた。
 ―――父親がリンドブルムの出身だということも、元は貴族でないことも既に知っている。


 しかし、彼女がそれ以上のことを知るのはもう少し後のことになるのだった。






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