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 エメラルドが早々に図書室から切り上げ、両親の部屋へ顔を出してみると。
 なんとも、白熱の試合が繰り広げられていた。
 父が器用で何でもできることは既に周知の事実だったのだが。
 なぜ母までもがカードゲームをするのか、その理由までは思いもよらなかった。
「この四桁の数字が重要なんだ。攻撃力とタイプだろ、防御力と魔法防御力。わかるか、ダイ?」
「う〜んと、それじゃぁ、このカードはここ?」
「はい、お母さまの勝ち」
「待った!」
 と言ったのは、ダイアンでなくジタン。
「ダメ。勝負の世界は厳しいのよ」
 生き生きした瞳の母を、エメラルドはまじまじと見つめた。
「お母さまも、カードゲームおわかりなの?」
「ええ、ルールはわかるわよ。でも、お父さまの方がお上手だわ。カードゲーム大会で優勝したくらいだものね」
「それ、何年前の話だよ」
 ジタンは苦笑した。
「ねぇ、父上。僕勝てるようになる?」
「ああ、なるさ。ちゃんとルールを理解して戦えば、ウィリアムなんてチョロイもんだ」
 ジタン、とガーネットが顔を顰める。
「子供たちに変な言葉教えないでよ?」
「わかってるって」
「どうかしら、ベアトリクスが言ってたわよ。最近サファイアがおかしな言葉を使うって」
「……げ」
 ―――エメラルドは見抜いていた。
 どうやら、父が母に滅法弱いらしいこと。
 そして、父が母の絶対的な支えとなっていることも。
 こんな風に自然な両親を見るのが、彼女は好きだった。
「ねぇ、父上父上、このカードはどうやって使うの?」
 膝の上から、ダイアンが質問する。
「これか? これは矢印が少ないから……」
 と、せっかくの講義もまだ途中と言うのに。
「おかあさま〜!」
 駆け込んできた完全無欠の暴れ馬、サファイア。
 彼女はなんと、鼻の頭を見事なまでに擦り剥いていた!
 言葉をなくした両親の代わりに、エメラルドが尋ねる。
「サファイア。あなた、一体鼻をどうしたの?」
「どのお鼻?」
 素知らぬ振りを決め込む末妹。
「あなたの鼻の頭よ。また悪戯したんでしょう」
「う〜んと、そういえば、追いかけっこの途中で柱にぶつかったかも」
 ……そんなわけで。
アレクサンドリア城では鼻の頭に絆創膏をした前代未聞の姫君を見ることができるのだった。



***



 後年、女王となったエメラルドのすぐ側に仕えた人間たちはみな、親愛の念も込め、彼女をこう謳った。
 ―――隠し事の利かない女王陛下、と。
 ひどく察しのいいところだけは唯一父親に似たのかもしれない、と。
 彼女の父を知る人間が心の内に思ったことは、この場のみの話としておこう。



-Fin-



なんか、エメラルド主役のはずがサファイアばかり目立ってる(^^;)
リクエストは「エメラルド+弟妹が小さかった頃、クリスマス小説後の話」でした〜♪
ってことで、三人の子供たちがクリスマスプレゼントで遊ぶ様子を(笑)
いやはや、まさかエメラルドを主役にとリクエストいただくと思わなかったので、ビックリやら嬉しいやら(^^*)
意外と人気があって安心しました、長女(笑)
ちなみに、題名の「Sarah」はエメラルドのセカンドネーム。
特に気にも留めず響きで決めたのですが、調べてみたら「王女・女王」なんて意味があるそうです。
ぴったりなセカンドネームだったんですね〜(ぉぃ^^;)

で、ですね。「双子の月」はせいオリジナルの戯曲です。あらすじしか出来てません(^^;)
サファイアの恋物語、「その恋、砂塵のごとし」6話あたりをご覧いただければと思います。

それにしても、改めて「その恋」の「朝露」を読んでみたら、まぁ、日本語がヘベレケ(^^;)
エメラルドのキャラクターもあんまりちゃんと決まっていなかったような感じで、
今回は彼女の性格部分に気をつけて執筆しました。って、なんか偉そうに言ってますけど(滝汗)
こんなものでよろしかったのでしょうか、真緒さん。。。(^^;) 何だか申し訳ない気持ちでいっぱいです・・・。
でもでも! 書いていて楽しいリクエストでしたv ありがとうございました〜vv

2003.1.9




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