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「ジタンさん、そのおでこどうしたっスか?」
「ん? まぁ、ちょっとした事故があってな」
「自分で自分の首絞めたんだろうが」
「へへっ」
ジタンがヘラっと笑うと、ブランクはやれやれと肩を竦めた。
「でもさ、なんか遠足みたいだよな、こうやって出掛けるの!」
ジタンは一人歩を早めて、立ち止まると日溜まりの中でう〜ん、と伸びをした。
「そう言えば、ボスがいなくておいらたちで出掛けるのは初めてずら」
「そう言えばそうっスね」
マーカスも肯いた。
ここはボーデン駅。
リンドブルムから飛空艇に乗って、三時間ほどの場所である。
ここから鉄馬車に乗り換えて、数時間後には山向こうのアレクサンドリア領に到着する。
ダリ村は、アレクサンドリアの駅から目と鼻の先だった。
駅には既に鉄馬車が到着しており、折り返しアレクサンドリアへの乗客を待っていた。
車両に入るなり、
「オレ窓側に座る!」
「あ、ずるいっス、ジタンさん!」
バタバタと走り回る二人。
「お前ら静かにしろよ」
と、止めるブランク兄貴。
その間に、シナが窓側の席を陣取ってしまった。
「あ〜〜っ! どけよシナ、オレが先に座るって言ったんだぞ!」
「その次は俺っスよ、シナさん!」
「先に座った方が勝ちずら」
「何を〜〜っ!」
「ほら、お前ら黙って座れ!」
と、金髪頭を押しやってさっさとシートに座らせた。
「ってぇな。なんだよ、一人イイコ振りやがって、ブランク」
「言っとくけどな」
ちょっとムカッときたブランクが、ジタンを睨んだ。
「今回何か事が起こったら、俺たち全員連帯責任なんだからな」
“連帯責任”という凄みのある言葉に、未だ立ったままだったマーカスもシートに腰掛けた。
「どういうことっスか?」
「どうもこうも、あのバクーが考えることだぜ? 罰として何やらされるかわかんねぇよ」
「げげっ、マジかよ」
ジタンは両手を口元に当てた。静かにする、という決意表明である。
「だいたい、今回も例の悪戯の罰ずら」
「あれは最悪だったっス」
「ジタンがドジ踏んだんだよな」
例の悪戯というのは、二週間ほど前に溯る。
少年四人は「肝試し」を計画、実行したのだ。
目的地は、リンドブルム郊外の共同墓地。
そこにしか咲いていない花を取ってくるゲームだった。
が。
結果としてそれが大騒ぎとなり、彼らはボスに大目玉を食らった。
「仕方ねぇだろ、お前らだって散々喚き散らしたじゃねぇか」
ジタンはむくれて言った。
「あそこで喚かないで、いつ喚くずら」
「あれは怖すぎたっス」
マーカスは思い出したのか、ブルリと身震いした。
「とにかく、何も問題起こさないでくれよな、今回は」
ブランクはそう言い捨て、頭の後ろで組んだ腕を枕に昼寝を決めた。
「何だよ、自分だっていつも混ざってるくせに」
「兄キは最初に怒られるから、大変っス」
「そういう時も、タンタラスは年功序列ずら」
山頂の駅に降り立った四人。次の鉄馬車まで休憩所で待つことになった。
山頂の駅と言ったら、やはり。
「まんまるカステラ食べるずら!」
……である。
「自分の小遣いで買えよ。ボスの奴、切符代ぴったりしか寄越さなかったから」
「げげ、マーカス、お前いくらある?」
「えっと……12ギルっス」
「おいら15ギル」
「オレ8ギル」
「……もっと持ち歩けよ、お前ら」
割り勘で一袋買い、ホームで景色を見ながら頬張る。
遠くに霞むリンドブルム城は、小指の先ほどに小さかった。
マーカスとシナが最後のカステラをどうするかと頭を悩ませている間に、ブランクはホームの端まで行って、ぼんやり遠くを見つめるジタンに声を掛けた。
「どうした?」
ジタンははっとして振り向いた。
「……別に」
「お前さ、おととし家出したとき、鉄馬車乗ったんだろ?」
ブランクが尋ね、ジタンは一瞬、どうしようかと戸惑った素振りを見せた。
が、やがて、ブランクから顔を背けて素直に頷いた。
「……うん」
一年ほど旅して回った後、少年は一人の竜騎士に出会った。
彼女に連れられてトレノから鉄馬車に乗ったのが、嘘のように昔のことに思える。
どうしているのだろう、フライヤは。
今でもまだ恋人を探しているのだろうか?
「こうやって遠くから見てると、リンドブルムって小さいな、って思ってさ」
ジタンは手を伸ばし、町を捕まえようとした。
「みんなどうしてるかなぁって……思った」
そう呟くと、ジタンは振り向いた。
そして、とびきり悪戯そうにニッと笑った。
「オレがいなくて寂しかっただろ」
「せいせいした、の間違いだろ」
「嘘だ〜! オレ、ルビィから聞いたもん」
「あぁ? 何聞いたんだよ」
―――この、目の前の親友が一番心配してくれていた、と。
不意に照れくさくなって、ジタンは答えずに身を翻して駈け出した。
「マーカス! それ、最後のオレのだぞ!」
「え? ジタンさん三つ食べたっスよね」
「二個しか食ってない」
「嘘ずら! 絶対嘘ずら!!」
シナが飛び跳ねて抗議を始め、ちょうど通りかかった駅員がしかめっ面した。
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