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 次の日にはジタンも恐るべき治癒力で畑仕事に復帰し、後は順調に時が過ぎた。
 約束の一週間がきて、マシューおじさんは刈り終わった麦畑を満足そうに見渡した。
 裸になった畑には、ところどころに麦の穂が干してあった。
「やぁ、よく頑張ったね」
 褒められて、少年たちも満足げに笑った。
「君たちに手伝ってもらわなかったら、本当に大変だったよ。ありがとう」
 それから、マシューおじさんは一人一人の手に小さな袋を渡した。
「一週間分の駄賃が入ってる。好きに使っていいからね」
 少年たちは顔を見合わせた。
 やった〜、とばかりにはしゃぎ出した仲間を尻目に、ブランクは困った顔をしておじさんを見た。
 彼はにっこり微笑んだ。
「バクーには内緒にしておくから、心配しなくていいよ。本当に助かったから、そのお礼さ」
 でも……、と俯いて口ごもる少年に、彼は懐かしそうな目をした。
 もう三十年も前、同じようなシチュエーションで、彼は、とある少年に金を渡した。
 飛空艇と演劇の大好きな少年だった。
 仕事を手伝ってくれたお礼にと、彼はその少年に少しばかりの駄賃をやったのだ。
 少年は困った顔をして、決して受け取ろうとしなかった。
 だから、彼はこう言ったのだ。
「そのお金で、何か有意義なことをしてごらん。そして機会があったら、何をしたか僕に伝えて欲しいな」
 少年は顔を上げた。
 同じセリフに同じ反応を返すあたり、親子みたいに似ているな、と彼は思う。
 人の良さそうな茶色い瞳は、にっこり微笑んだ。
「さぁ、そろそろ行かないと。次の鉄馬車に乗り遅れたら今日中にリンドブルムに着かないぞ」
 ブランクの背中を押しやって、村の出口に向かわせた。
 ふと、金髪の少年が一人振り向き、真剣な眼差しで彼を見つめた。
 そして、自分の袋からギル硬貨をいくつか取り出し、マシューの手に返した。
「どうしたんだい?」
「これ、オレ一日寝込んで働いてないから」
「ああ、いいんだよ、そんなこと気にしなくて」
 しかし、ジタンは頭を振った。
「切手代にして、おじさんの」
「……切手代?」
「うん。オレたち手紙書くから、返事下さい」
 悪戯そうな青い瞳が、彼を見上げた。
 次の瞬間、その少年は仲間たちに向かって走り出した。
 そして、何事もなかったかのように仲間にじゃれ付きながら、飛び跳ねるように駅へと歩いていった。
 途中、一回だけ全員で振り向くと、
「来年また来ます!」
 手を振って、少年たちは大声で叫んだ。



***



 その約束が果たされなかったのには、いくつかの要因があった。
 一つには、その年の春先にダリ村の畑が潰されたこと。
 がっかりしたマシューがダリ村を去り、もっと遠くの村へ引っ越してしまったこと。
 そして、もう一つ。
 1800年の、あの戦いがあったこと。


 しかし、十年たった今でも、時折彼らの元にはかの人から手紙が届く。
 今年も小麦が豊作だと、手紙には記してあった。
 そして、相変わらず、封筒には草の匂いが込めてあるのだった。



-Fin-



考えていたよりシリアスな運びになってしまった・・・(苦笑)
リクエストは「ゲームの1年前、ジタンがなぜダリ村に行ったのか?」ということで、
1799年のタンタラス・パニックとなりました〜♪
いまいちストーリーがありませんが、
たぶんこんな感じでジタンはダリに行ったんじゃないかな〜・・・と(絶対嘘だ:汗)
ホントは近くにトレジャーハンティングか何かに行ったんじゃないかと思うんですが、
せっかくなので大自然にご案内です(笑)
ちなみに、今回登場のマシューおじさんはせいの創作でございます。。。すいません(汗)

ダリ村って冬でも作物が取れるんですよね〜・・・知ってました?(笑)
たぶん二毛作なのかな〜〜・・・二期作? どっちかわからないけど(汗)
農作業ってホントに大変なんですよ〜〜!
せいは高校生の頃ファームステイってのをしましたが、ホント大変だった・・・。
そんなわけで、タンタラスにもファームステイをさせてみようと思って、こんな話に(笑)
某ク族のようにカエル採りに熱中するジタン、だからクイナを止めなかったのかv(コラ)

とにもかくにも、しょぼい作品ではありましたが、
心から感謝の気持ちを込めて・・・リクエストありがとうございました!
2003.5.7



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