Coexist with... 飛空艇ヒルダガルデ3号のデッキに、一人佇む男がいる。 そう。焔色のサラマンダーといえば、彼のことだ。 「ねぇ、ちょっとちょっと、サラマンダーってば!」 「……」 その隣で、ぴょんぴょこ跳ねながら必死に自分の存在をアピールするのは、召喚士の少女。 その小さな体に比べれば建築物並の大きさである(加えて、建築物並みに無口でもある)彼に、一生懸命根気強く話し掛けている。 どうやら、のっぴきならない用事があるらしい。 「サラマンダーったら! あ〜、もう! なんで無視するのよ、イケスカナイ男ねっ!」 ―――ガキのクセに、可愛くないことを言う。 「……何だ」 「もぉ、さっきから呼んでるのにぜ〜んぜん返事しないんだから! おじいさんが言ってたんだからね。呼ばれたら返事するのはヒトとして当たり前の礼儀なんだから!」 ぷんぷんと頬を膨らませ、腰に手を当てる。 子供の説教はさらに続きそうだったが、ギロリ、と睨んだブルーグレーの瞳に一瞬身を竦め、ようやく口を閉じた。 もちろん、サラマンダーに睨んだつもりはない。 そして、エーコもそのことはわかっている、らしい。 「あのね、サラマンダー。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「何だ」 さっさと言え、と言わんばかりに無感動な声で合いの手を入れるサラマンダー。 「その―――大好きな親友と同じ人を好きになっちゃった場合、どうしたらいいと思う?」 ―――しーん。 「ちょっと、聞いてるの!?」 「……聞いている」 「何とか返事したらどうなのよ!」 「そんなことを聞かれても、俺はなんとも言えん」 「だからぁ、サラマンダーなりの意見を聞きたいんだったら! だって―――」 こればっかりは、ダガーに相談できないんだもん。 と、小さい声で言う。 「お前が言っている好きな奴がジタンのことなら、努力しても無駄だな。諦めろ」 「ひっど〜〜! どうしてそう傷つくこと平気で言えるわけ!?」 「俺は本当のことを言っているだけだ」 ……まぁ、そうなんだけどさ、と。 エーコは後ろ手に手を組んで、いじけて見せてから笑い出した。 「ま、いいわ。そんなこともうわかってたことなの。サラマンダーにハッキリ言ってもらってすっきりしたのだわ」 「ふん、そりゃよかったな」 「何よぉ! もうちょっと気の利いた言葉は掛けられないワケ?」 「さぁな」 ぷぅ、と膨らんだ頬に、サラマンダーは溜め息をついた。 ―――まったく。なぜ俺がこんなガキを相手にしなきゃならん。 「もういいのだわ! サラマンダーはそうやってそこでボーっとしてれば!」 と言うと、あっかんべ〜っと舌を出してエーコは船室へと戻っていった。 ―――やれやれ。 「おお、サラマンダー。こんなところにおったか」 今度はネズミ族がやってきた。 どうも、あまり得意でない相手だ。 「何か用か」 「いや、特と言って用はないのじゃが。船室でカードゲームをしておるのでな、おぬしも参加せぬかと思うて」 「ふん、別に興味はない」 「そのようなことばかり申すな。仲間なら、共に遊ぶことも重要な仕事じゃ」 「―――そういうものか?」 「そういうものじゃ。遊ぶのも、コミュニケーションの一環じゃな」 と、その時。フライヤが出てきたドアの向こうから、複数の歓声が上がる。 どいつもこいつも子供のような。 「……考えておく」 サラマンダーが呆れた声で言うと、フライヤはクスリと笑みを漏らした。 「おぬしも随分と感化されたものじゃ」 「―――ジタンか?」 フライヤは肯くまでもない、という顔をした。 「おぬし、仲間に加わったばかりの頃は随分とつんけんしておったではないか」 「……」 「まぁ、あやつは存在感が大きいからのう。影響されても無理はない」 「……」 無言の相手に、フライヤは再び笑顔を向けた。 「そう面白くなさそうな顔を致すな。私とてジタンには救われたのじゃから」 一瞬、意外そうな目をするサラマンダー。 「悩んでいることが馬鹿らしくなってのう、悩む前に行動を起こすことがどれだけ有意義であるか、思い知ったものじゃった」 「―――そうか」 微妙な表情でただ一言返した男に、フライヤはふざけたように眉を顰めた。 「おぬしも、もう少し気の利いたことを申せばのう。そういうところも学んだ方がよいのではないか?」 ―――それは御免だ。 さっきから、部屋の中で五月蝿く喋り続けているのはあいつだろうが。 無言の拒否を愉快そうに受け、 「まぁ、気が向いたら来ればよい」 と言うと、フライヤは再び部屋へ帰っていった。 ―――やれやれ。 と思ったのも束の間。 ほとんど入れ替わるように、今度はお姫さんが扉から顔を出す。 「サラマンダー、何してるの?」 「―――何も」 そう、と小声で相槌を打ち、何を思ったか部屋を出て、扉をパタンと閉めた。 「何だ」 「さっき、ジタンと話していたでしょう? 何を話していたの?」 「俺に妬いてるのか」 「ち、違うわよ!」 と、赤くなるガーネット。 「ただ―――」 胸騒ぎが、するの。 小さな声でそっと呟く。 「何か、よくないことが起こる気がしてならないの」 「―――そうか」 「……怖いの。みんなを巻き込んでいることが」 俯いて、そう言うガーネット。 「別に、好きで一緒にいるんだろうが」 「それは……そうかも知れないけれど」 「あいつも言っていたぞ。自分を動かすのはお前だとな」 「……ジタンが?」 「そうだ」 「そんなことを……」 胸に手を当てて嬉しそうに微笑む少女を見下ろして、まぁ、夢中になるのもわからなくはない、などと考えてみる。 「あいつを含めて全員、好きでお前と行動を共にしている。気にすることはないんじゃないか?」 「―――ええ、そうね」 ガーネットは顔を上げ、にっこり微笑んだ。 「ありがとう、サラマンダー。―――明日から、また頑張りましょうね」 「……ああ」 そこで、今度は会話の主題が扉からひょこっと顔を出し。 「あ―――っ! 何こそこそ話してるんだ、ダガー!」 と、不機嫌そうな表情。 「なんでもないわよ。サラマンダーも一緒にゲームしないかって、誘っていたの」 「へ〜。サラマンダーでもカードなんかに興味あるんだな」 「……誰が」 「いいじゃんいいじゃん。ほら、入れって」 かなり強引に部屋に押し込まれれば。 「ちょっと、ビビ! それ出したら負けちゃうでしょ!? どうしてあんたはそうトロいのよ!」 「え、ご、ごめん……」 「ビビ殿、エーコ殿、ジタンなんぞ負かしてやるのですぞ!」 「もっちろん! あったりまえなのだわ」 「えっとぉ……このカードが最初で……」 「ところでスタイナー。ビビとエーコが勝てばダガーは負けるようじゃが、よいのか?」 「―――(はっ!)」 「スタイナーったら。いいわよ、そんなこと気にしなくても」 「それより、これは食べられるアルか〜?」 「あ、それは……」 「ちょっとクイナ! カードは食べ物じゃないわよ! ビビもボサッとしてないで、注意してよ!」 「ご、ごめん……」 わいわいがやがや。 ―――何とも、頭が痛くなる。 「へへっ、もう少しでオレが勝つところだからな。お前にも勇姿を見せてやるよ、サラマンダー」 「―――子供相手にムキになって……」 「勝負事に大人も子供もないだろ?」 「そうよそうよ! 子供だからってバカにしないでよね! ね、ビビ?」 「え? う、うん」 「よ〜ぉし、それじゃ、次の手はここだ!」 「はい、次、ビビ!」 「え、えっとぉ〜……」 「ほら、シャキシャキやりなさいよね!」 仕方なく、部屋の隅にドカッと腰を下ろした。 全員遊びの戦況に夢中になって。 ―――明日は得体の知れない異世界へ行くというのに。 でも。 居心地が悪いわけではないから、去る理由もない。 嫌いな奴がいるわけでもないから、出て行く理由もない。 その日を精一杯生きる人間を見るのは、決して気分の悪いものではない。 そこに自分の場所が用意されていることに、嫌気がさすわけでもない。 ―――やれやれ。 仲間とは、不思議なものだ。 -Fin- サラマンダー誕生祭に投稿させていただいた作品です。 ・・・相変わらず「…」「―」多いですねぇ。。。(^^;) サラマンダーは喋り方が本当に分からなくて、とりあえず私なりのイメージで喋らせてます(苦笑) う〜ん、もう少し乱暴そうだなぁ、彼の喋りは。 本当はメンバー全員と話して欲しかったのですが、力不足で女性陣のみに(^^;) 役得ですね〜、サラマンさん(笑) 2002.11.23
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