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フラットレイから遅れること数日後、フライヤはサラマンダーと共にブルメシアへ戻り、その足で王宮へ赴いて退官を願い出た。
「本気なのか、フライヤ?」
「はい」
「決心は変わらぬのじゃな」
「申し訳ありませぬ」
国王は小さく溜め息を吐く。
実は、知っていたのだ。フラットレイとの間にいざこざが起こっていたこと。全てを鑑みれば、確かにブルメシアに留まることが彼女にとって良いこととは思えなかった。
「わかった。許可する」
「有難う存じます」
「ただし」
父親の言葉の後を継ぐように、パックがひょいと顔を出し、歩み寄るとフライヤの手を取った。
「墓参りは、欠かさぬように」
「王子……!」
何故それを、と問いたげな翡翠色の瞳。パックは小さく肩を竦め、その問いを躱した。
これでも、随分長い間一人で旅をした。人の変化には敏感だし、情報収集力も並外れているのだぞ、と。
「二人で来るがよい。忘れるな」
国王が言うと、フライヤは飛び上がらんばかりに顔を上げ、それから再びパックを見た。
彼は片目をパチッと閉じ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
雨は止んでいた。
墓標は僅かに乾き、まるで幼子がそこで微笑んでいるようだった。
フライヤは墓前で屈み込み、長い間じっと黙って土盛を眺めていた。サラマンダーは隣に立ち、やはり何も言わなかった。
「ここから、始めても良いか」
フライヤは風に攫われそうな声で呟いた。
「ここから、この子から、全てを始めても」
「ああ」
サラマンダーはぶっきら棒な声で静かに答えた。
フライヤは見上げると、微かに笑った。
それに答えるように、彼は腕を伸ばしてその頭を抱き寄せただけだった。
「父と母は、しばらく旅に出ねばならぬ」
ゆっくりと、小さな子にするように話しかけながら、フライヤは墓標を指で撫でた。
「また会いに来るゆえ、それまで良い子にしておるのじゃぞ」
母は、決しておぬしを忘れたりせぬ。きっと……おぬしの父も。
今から思えば、全てはおぬしから始まったのじゃな。その儚い命を以ってして、この頼りなき母に真実を知らしめてくれたのじゃろう?
おぬしは、私が幸せになることを望んでいたのじゃな。
―――幼子が、風の中でふわりと笑った気配がした。
あの日、フラットレイがブルメシアを出て行かなければ。
フライヤはその後を追って旅立つこともなかった。五年もの間旅することもなかった。
ジタンと出会うこともなく、あの戦いに加わることもなかった。
全ては、ここから始まる運命だったのだ。
ふらふらと揺れていた弱い心は、故国に置いて行こう。
犯した罪と悔恨は、この場所に置いて行こう。
全てをまっさらにして、全てをここから始めよう。
そして―――
フライヤはサラマンダーを見上げた。彼は寄り添うように立ったまま、黙って墓標を見つめていた。
「サラマンダー」
その先に何があるかなど、まだわからないけれど。
サラマンダーはフライヤを見た。
二人の視線は完全に絡み合い、もう二度と外れることはないかのようだった。
-Fin-
祝! 初サラフラ(笑) 別設定に逃げながら、こんなお話になりました。
・・・かなりおっかなびっくりな内容ですが(苦笑) お気に召さなかった方はすみませんm(_ _)m
フライヤがサラマンダーを選ぶとしたら、そこには余程の理由があるんじゃないかという気がします。
それくらいの貞操観念がありそうな姐さん。そんなところも大好きv
サラフラにはまた挑戦したいな〜、と思います♪
その時はこの続きの話になるのかも? なんて考えています(笑)
2006.9.11
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