<11>
「大丈夫だったか?」
ジタンは、歩いてきたガーネットに尋ねた。
「ええ、もちろん。ちゃんと和解したわ」
「―――そっか」
にっこり微笑んだ彼女につられて、ジタンも笑った。
「ねぇ、お兄ちゃんもう帰るの?」
チョコの足元で戯れていた子供の一人がそう聞いた。
「ああ、用事は済んだみたいだしな」
「ふ〜ん。ねぇねぇ、また遊びに来てくれる?」
幼いその言葉に、あらあら、とガーネットは笑った。
「すっかり懐かれちゃったのね、ジタン」
ジタンは後ろ頭を掻くと、気が向いたら来るさ、と答えた。
彼らは盛んに、つまらないとかもっと遊ぼうとか言っていたが。
やがて、母親にでも呼ばれたらしくあっという間にテントへ向けて走り出した。
もちろん、ジタンとチョコにさよならと手を振って。
「ふぅ、やれやれ。それじゃ、行こうか」
やっと解放されたジタンは溜め息をついてそう言ったが。
ガーネットはまだクスクスと笑っていた。
「いつまで笑ってるんだよ」
「ふふふ、ごめんなさい。ただ―――」
にっこりと笑ったまま、ガーネットは自分の下腹部に手を当てた。
「ジタンはいいお父さんになりそうだな、と思って」
へ? と目を見開くジタン。
「この子も、召喚士の血を引いたみたいね」
「え? ちょ、ちょっと待った、ダガー。それって……」
「昨日ね、この子が召喚魔法を使ったのよ。わたしを守ろうとして」
ガーネットの背中から生えた光の羽を思い起こして、ジタンは一瞬黙り込んだ。
―――それじゃぁ。
つまりは……。
「ダガー!」
ぎゅっと抱き寄せられ、ガーネットは柔らかい笑い声を立てた。
「なぁ、そうなのか? そういうことなのか?」
「ええ、そうよ。来たのよ、赤ちゃんが」
ジタンはますますガーネットを抱き締めた。
「本当なんだな?」
「間違いないわ」
力のこもった肯定の言葉に喜びが溢れる。
白い頬と額に口付けして、ジタンは満足げに微笑んだ。
ガーネットは幾分驚いた顔をして、次に頬を赤らめる。
―――ひゃっほ〜、とか言うのかと思ったのに。
「ちょっと、ジタンったら! ほら、チョコが呆れてるわよ?」
「へへ。見るなよ、お前」
再びガーネットを抱き締めたジタンに。
待たされることには慣れた金色の鳥は、それでも一応不服そうに、小さくクエッと鳴いたものの。
悪戯っぽい目を背けて、暫くの間見なかったことにしてくれた。
***
ふわりと、風の中に懐かしい感覚が漂って。
『もう大丈夫だよ』
と、微笑が通り過ぎていく。
ああ、そうだ。この感じだ。
あの夜見た夢―――
風の中、とんがり帽子の先がぴょんと跳ね、淡い光となって消えた。
―――ビビ。
あの夜会いに来たのはお前だったんだな。
気を付けろって、忠告しに来てくれたんだな。
儚く消えた、仲間―――。
「ジタン?」
「―――あ゛」
「何?」
「あいつら……」
「え?」
ジタンはぱっとガーネットを離すと、少し先の木立を睨みつけた。
「なんだよ、フライヤ! 来ないって言ったじゃないか!」
「え? フライヤ?」
ガーネットが振り向くと、ばつの悪そうなフライヤと、間違いなく無理矢理付き合わされた顔をしたサラマンダーが木から飛び降りてきた。
「さすがに心配じゃからな、来てしもうた」
「そんなに信用ないわけ、オレって」
「そういうわけではないが」
と、フライヤは苦笑した。
「おぬしも、ことダガーの事となると頭に血が昇って冷静に事を運べなくなるであろう。備えあれば憂いなし、念には念じゃ」
「何だよ、それ〜」
口を尖らせたジタンにどうしたものかと、フライヤは困惑した顔をしたが。
「こいつは心配性なんだ、諦めろ」
サラマンダーが一言水を入れ珍しく笑ったので、ジタンははぁ、と溜め息をついて黙った。
「まぁ、あれだけ失態を演じてくれれば心配性にもなるというものじゃろう」
「それもそうだ」
「うるさいなぁ」
ガーネットは三人のやり取りにふっと笑みを漏らし。
「さ、もう帰りましょ。きっとみんな心配してるわ」
と言う。
「そうじゃな。そう致そう」
察しのいいフライヤはガーネットがチョコに乗るのを慎重に手助けした。
「おい」
サラマンダーが、突然ジタンを呼んだ。
「なんだよ」
と、まだ不機嫌な盗賊殿。
「―――あいつ、来ていたな」
途端に、青い目を見開いてサラマンダーを振り返る。
「じゃぁ、サラマンダーも……」
「お前たちを一番心配してるのは、もしかしたらあいつなのかも知れない」
そう言い残し、手招きするガーネットに答えてサラマンダーもチョコの背に乗り込んだ。
「ジタン―――! 置いてくわよ?」
「おお、それはよいかも知れぬの。あの様子ではアレクサンドリアまで喚き通しじゃ。ゆるりと旅も出来ぬ」
「そうね。ジタンなら一人でも無事にアレクサンドリアまで帰ってこれるわね、きっと」
「あのなぁ!」
フライヤの予言通り、ジタンはアレクサンドリアまで喚き通していたが。
ゆっくり走ってくれと命じられたチョコはいつもの倍の時間をかけ、アレクサンドリアまでパーティを運んだ。
彼らは束の間、あの頃の旅を思い起こさせるような時を過ごしたのだった。
―――ねぇ、ビビ。
ときどきね。
あの旅は、本当は夢だったんじゃないかと思う時があるの。
でも、こうやって会いに来てくれる仲間がいて。
共に歩んでくれる人がいて。
あなたとの思い出も、やっぱり嘘じゃなかったんだって確認できるから。
わたしたちは忘れたりしないわ。
あなたが、わたしたちと同じ時を生きたこと。
同じ記憶を紡いだこと。
―――この世界に、あなたという魂が確かに存在したということ。
いつもわたしたちを見守っていてくれて、ありがとう―――ビビ。
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-Fin-
はい、せいは逃げました(苦笑)
言い訳ページはこちらからどうぞv(何)
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