夢の言霊



<1>


 アレクサンドリアからジェフリーに一通の手紙が届いたのは、暑くなりかけてきた夏の初めのことだった。
 差出人、サフィー・アレクサンドロス。
 アジトにいたタンタラスたちは口々に彼を冷やかした。
「で、お姫さん、なんて?」
 一心に手紙を読み、冷やかしの言葉も耳に入らない様子のジェフリーに、ルビィは尋ねた。
「うん、来週、こっちに遊びに来るって!」
 ジェフリーが目を輝かせて言うと。
「なんやて! 大変や、掃除せな!」
 と、ルビィは慌てて椅子からバンッと立ち上がった。
「あんたたち全員、手伝おてや!」
「え―――!」
 大ブーイング。
「もう! なんでジェフリーの彼女が来るせいで、わたしたちが被害被るわけ?」
「そうっスよ。ジェフリーが一人で手伝ったらいいっス!」
「そうずら〜!」
 バシン!(テーブルを叩く音)
「あんたたち、よぉ考えてみぃ。このふ抜けたジェフリーが役に立つように見える?」
 ―――確かに。
 ジェフリーは既に夢の国の住人になっている。
「ただいま―――ん? どうした?」
 と、運悪く、タイミング悪く帰ってきたのは、ブランク。
「あんたも手伝おてや。今日からアジトの大掃除や!」
「は、はい?」
 早速モップ掛けさせられる盗賊が一人……。不憫なり。



***



「それじゃ、お母さま、行って参ります」
 サファイアは母親の頬にキスして、その目を見た。
「気を付けてね。くれぐれも―――」
「わかってる」
 にっこり笑う娘の明るい表情に、ガーネットの顔も自然とほころぶ。
 対照的なのは父親の方。
「お父さま〜、いつまでそんな恐い顔してるの?」
「無駄だわよ、サフィー。お父さまはね、まるであなたがお嫁に行っちゃうような気分なのだから」
 と、姉のエメラルド。その隣では兄のダイアンが笑っている。
「もう。すぐ帰って来るんだからいいじゃない!」
 頬を膨らませるサファイアに、ジタンは、
「――――まぁな」
 ちっとも機嫌の直らない父親は放っておいて、サファイアはレッドローズ1号に乗り込んだ。
「ベアトリクス、よろしくね」
「はい、ガーネット様。お任せください」
 手を振る娘の生き生きした姿に、ガーネットはかなり安堵していた。
 何があったのか、直接にはわからなかったが。
 どうやら、自分の中で自分にけじめがついたのだろう。
 以前の、明るくて少し無鉄砲な娘に戻っていた。


 老飛空艇は蒼い空へと舞い昇ってく。
 サファイアの心は、もう、ある人へと一直線に向かっていた―――!




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