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「―――帰ってない?」
ブランクが恐い目をして聞いたので、ルビィは思わずたじろいだ。
「てっきり、そっちに行っとるんやと思てたんやけど」
「―――来たけど、すぐ帰ったんだよ」
「……なぁ、ブランク。もしかして……」
彼は最後まで聞かずに飛び出していってしまった。
「ハリー、あんた、お父さん呼んで来ぃ。ラリ、あんたもや」
二人は弾かれたように飛び上がって頷くと、アジトを出ていった。
「あの、ルビィおばさま……」
不安げなサファイアの肩に手を回し、ルビィは「大丈夫や」と呟いた。
「あたし、何かいけないこと言ったのかしら」
「そういえば、サフィー、大ボスとずっと喋ってたのよね」
と、リアナ。
「そうなん? なんか言っとった?」
サファイアは数瞬考えて、なるべく正確に会話を伝えようと試みた。
全部話し終えると、ルビィは肩を落とした。
「―――そう」
「母さん……」
リアナが母親の顔を覗き込む。
「もしかしたら、もしかするかも知れんわ―――」
何がもしかするのか、サファイアは恐くて聞けなかった。
「お袋!」
ジェフリーが二階から駆け戻ってきた。
「大ボスの部屋に、こんなのがあった!」
「何?」
ジェフリーは階段を下りるのももどかしく、それを投げてよこした。
その、白い封筒のようなものを一目見て、ルビィは途端に泣き崩れてしまった。
封筒には「子供たちへ」と宛名書きされていて。
サファイアはなぜかひどく胸が痛くなった。
***
「で、そのまま行方不明なのか」
ジタンはふぅ、と溜め息をついた。
バクーがいなくなった次の日、無線で連絡を受けたジタンはアジトへ駆けつけた。
全員揃って彼を待っていた。
ブランク、ルビィ、シナ、マーカス……。
一様に暗い表情だった。
ジタンは、テーブルの上に置かれた例の手紙を見つめた。
「読んだのか、これ?」
「―――いや、まだ」
ブランクが首を振る。
「あんた、読んでくれへん? うちら、誰も開ける勇気なくて……」
ルビィがハンカチを握り締めたまま小声で言った。
ジタンはしばらく黙ったまま、「子供たちへ」という宛名を見つめていたが。
やがて意を決したように封筒に手を伸ばし、封を切った。
―――ガキどもへ。
前々から言ってあったように、俺は俺の最期が近いと思ったら、アジトを出て行く。
どうも、弔いというのが好きじゃない。あんなものは弔われる側にしたらいい迷惑だし、何の意味もない。なんたって、自分は死んじまった後だからな。弔いってのは、死んだもんのためじゃなく、生き残ったもんのためにあるものだ。俺は気に食わん。だから、誰にも知られず一人で逝くことに決めていた。
俺の人生だ。おめぇらにガタガタ言われる筋合いはねえが、とりあえず俺がなぜいなくなったのか、それくらいは説明しといてやらにゃぁな。それから、育ててやった俺からは、おめぇらにガタガタ言う権利はあると思っているしな。
まず、ブランク、それからルビィ。
おめぇらがタンタラスを継いでくれたことはな、本当を言えば嬉しかった。元々、戦争孤児が寄り集まってできた盗賊集団、俺一代限りとも思っていたんだがな。
それなりに愛着もあるし、俺が死んだ後も盗賊団「タンタラス」が健在だと思うだけで、生きた甲斐があったように思えるから不思議だ。
ま、だからと言っておめぇらをタンタラスに縛り付けるつもりはないがな。やめたくなったらいつでもやめちまえばいい。そういう生き方が俺は好きだからな。
マーカスは孤児の面倒を見るようになったし、シナは城で飛空艇のエンジン組み立てて、まぁ、ジタンはアレクサンドリアで偉そうにしてやがるが、全員一人前になったじゃねぇか。何をするでも、何をしないでも、自分の思ったとおり、自信を持ってやるこった。
俺にとったら、おめぇらは俺の本当の子供みてぇなもんだった。
ガキの頃から育ててやって、俺が一人前にした子供たちだからな。
俺は俺の人生に満足している。死ぬときは笑って行けることだろうよ。
おめぇらもそんな風に生きるこった。
バクー |
ジタンは手紙を元のように折り畳むと、頭を振った。
「まったく。最後まで勝手なオヤジだな」
「やっぱり、もっと探した方がいいっスかね、ジタンさん」
「ん―――いや、いいんでない? 最後くらい好きにさせればさ。……で、オレたちだってオレたちなりに好きにさしてもらおうぜ」
「どういう意味ずら?」
「だってさ、このまま『はい、そうですか』って納得できないだろ? オレたちはオレたちで、ちゃんと弔ってやろうぜ」
「―――せやかて、ボスは嫌やて言うてるのに、ええの?」
「だから、嫌だっていうのがまず勝手なんだよな。こっちの気が治まらない」
「確かにそうだな」
ブランクが頷いた。
「じゃ、ま。ボスはボスらしく、送ってやろうぜ」
ジタンは立ち上がり、ニッと笑った。
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